大雨や地震で起きる土石流や地滑りなどの土砂災害被害を防いだり、軽減したりする対策。主に住民の命や人家、道路といった公共施設の保護を目的にしている。渓流や谷筋への砂防ダム設置などのハード対策と、急斜面への警戒区域指定や土地利用規制により、住民に早期避難を促すソフト対策がある。
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山地,崖,海岸,河道などにおける土砂の崩壊,移動,流出による被害を防止すること,またはそのための工事をいう。土砂の崩壊,流出などによる被害形態には次のようなものがある。(1)山地や上流河道で生じ,流水で運搬された土砂が下流の河道に堆積し,河道の面積を小さくする結果,流水がはんらんしたり,沿川の排水が悪化するもの(一見,洪水災害のように見えるが原因は土砂にある)。(2)渓流などに堆積していた土砂が流水と混合して,いわゆる土石流となって急速に流下,はんらんし,人命を奪い,人家や耕地を埋没させるもの。(3)山崩れ,崖崩れ,地すべりなどによって土砂が直接,人,家屋,耕地を襲い,また地すべりを起こしたその斜面上の人家,耕地に影響を及ぼすもの。(4)直接には人家,耕地に影響がないが,ダム,鉄道,道路などに土砂による被害を生じ,そのため人間生活に間接的な影響を与えるもの。(5)海岸の飛砂によって農作物,人家に被害を与え,用水路,排水路などを埋没させるもの。
これらのうち,(1)の現象は平安時代ころから認識されており,江戸時代には花コウ岩まさ地帯のはげ山に対し積極的な植林や,その下流の河川の舟運に対する浚渫(しゆんせつ)が実施されていた。元来,日本では,砂防というのは(1)の現象による被害の軽減を目的とした技術であった。すなわち,河川の天井川化を抑制することに主眼があり,1897年制定の〈砂防法〉でも,これに重点がおかれていた。しかし,昭和30年代以降の経済の高度成長に伴って,崖下,斜面上への宅地開発,道路の拡幅,整備などが進むと,(2)~(4)の現象が顕在化し,この対策も重要な課題となり,1958年には〈地すべり等防止法〉,69年には〈急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律〉が制定された。また,水資源開発を目的とした貯水池が多数建設され,将来における貯水池の埋没や,貯水位の変動に伴う湖岸の崩壊などが問題となってきた。これらのことは,従来の砂防の概念に影響を与え,今日では,砂防は(1)~(5)のすべての現象によって生ずる災害を防除する技術を指すようになった。すなわち,従来の山腹工事,渓流工事に加え,地すべり防止工事,急傾斜地崩壊防止工事および海岸砂防工事が砂防の概念のもとに取り扱われるようになった。
→海岸砂防
山腹工事は山腹砂防とも呼ばれ,崩壊地,はげ山,煙害地など森林が各種の原因で破壊され,それらの地域から土砂流出が著しく,自然な植生の回復が見込めない場合に,土木的工事を補助手段として植生を導入し,土砂生産の抑制を図るものである。山腹工事は山腹基礎工と山腹緑化工に大別される。山腹基礎工は,施工対象地に植生を回復するための基礎造りを行う工法で,山腹法面(のりめん)を整形し,斜面こう配を緩和させ,土留めを行い,排水路を設けて崩壊,浸食による土砂の生産を防止する。山腹緑化工は,施工対象地に草木の種子を直接まいたり,マツ,アカシアなどの幼木を植えて,将来の森林化を図る工法である。
渓流工事は渓流砂防ともいい,渓流において,上流から流出してくる土砂の貯留,渓流の縦・横浸食の防止,あるいはすでに河床に堆積している土砂の再流出の防止などを目的とした工法であり,砂防ダム工と流路工に大別される。砂防ダムcheckdamはその目的によって山脚固定ダム,縦浸食防止ダム,河床堆積物流出防止ダム,土石流対策ダムなどがあり,それらの効果を十分発揮できるよう階段状に多数設けることが多い。最近,構造上の特徴として,鋼製格子やスリットを設けた砂防ダムが登場している。これらは,土石流や大規模洪水時の土砂は貯留するが,平常時の土砂は通過させ,満砂しないよう配慮されたものである。なお,砂防ダムから落下する水がダム下流を浸食したり,山脚の浸食をかえって助長させることがあるので,その設置には十分注意が必要である。流路工は,扇状地河川を含め,土砂の堆積地帯で流路の縦・横浸食が盛んであり,流路の乱流が激しい場合に,床固め工と護岸工によって,流路の固定,土砂の再生産防止を図る工法である。床固めは河川を横断する高さ5m程度以下の低いダムであり,それ以上高くなる場合および長区間に及ぶ場合は階段状に設けられる。したがって,土砂の貯留能力はほとんどない。なお,幅員数mの場合は,河床に底張りコンクリートを施し,いわゆる三面張り流路工とすることが多い。山間のほとんどの河道に流路工が施されると,河川の生態系が破壊されるとともに,洪水の疎通がよくなり,下流への洪水流出が速く,そのピーク流量が大きくなるので注意を要する。このほか,近年では,土石流に対して,広い面積を確保し,土砂を滞留させる遊砂地が考えられるようになってきている。
執筆者:大熊 孝
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土砂災害を防止するために山地、渓流、河川における土砂の生産、流出、移動を制御すること。山地では豪雨や融雪により山腹崩壊、地すべりが発生し、渓流では豪雨により土石流が発生し、人命、家屋、田畑、道路などに被害をもたらす。山地や渓流で生産された土砂を河川が運搬し、貯水池に堆積(たいせき)すると、貯水池容量が減少し、貯水池の機能を低下させる。下流河道で堆積すると、河床が上昇し、洪水氾濫(はんらん)の危険性を高め、また河川沿岸の土地の排水を困難にする。このような土砂の生産、流出、移動に起因する土砂災害を防止するために、砂防ダム、床固め工、護岸、山腹工、地すべり防止工などの砂防工法が用いられる。砂防ダムは上流からの流出土砂を貯留し、下流への土砂流出を抑制、調節したり、渓床・河床浸食、渓岸・河岸浸食を防止して土砂生産を抑制したり、土石流を抑止、減勢する。床固め工は渓床・河床浸食を防止して土砂生産を抑制し、渓床・河床の低下を防いで渓岸・河岸の浸食、崩壊による土砂生産を抑制する。護岸は渓岸・河岸を防護して渓岸・河岸浸食による土砂生産を抑制する。山腹工ははげ山や荒廃地に苗木などを植えて緑化し、降雨による浸食を防止し、土砂流出を抑制する。地すべり防止工には抑制工と抑止工がある。抑制工には地すべりの要因となる地下水を排水する地下水排除工、雨水・融雪水の浸透を防ぐ地表水排除工、地すべり頭部の土を除去して地すべり運動を緩和させる排土工、地すべり斜面の末端部に盛土して地すべり運動を抑える抑え盛土工などがある。抑止工には地すべり斜面に鋼管杭を打ち込んで地すべり運動を抑える杭工、地すべり斜面に大口径の縦坑(シャフト)を掘削し鉄筋コンクリートを打設して地すべり運動を抑えるシャフト工、鋼棒を地すべり斜面を通して岩盤まで打ち込んで地すべり運動を抑えるアンカー工などがある。
[鮏川 登]
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