肥料や爆薬などの原料として使われる化学合成物質である。硝酸アンモニウムのことで、純粋のものは結晶水のない無色の結晶で、理論的な窒素の含量は35%である。しかし吸湿性が大きいため肥料用硝安には固結防止剤として界面活性剤や選択吸湿剤を添加するので、公定規格ではアンモニア性窒素、硝酸性窒素とも16%以上となっている。硝安は油と混合しただけで爆薬として使われるほど爆発性をもつので有機物との混合については注意が必要で、法的にも危険物の規制を受ける。しかし肥料としては生理的中性の速効性肥料であり硝酸もアンモニウムもともに作物に吸収され、土壌中に悪影響を残さないという環境保全型の優れた特徴がある。ただし、硝酸態窒素を含むので水田には適さず、野菜や果樹などの畑作物に適した肥料である。
[小山雄生]
『佐々宏一著『火薬工学』(2001・森北出版)』
硝酸とアンモニウムの結合した窒素肥料。このほかに硝安と炭酸カルシウムを混合した硝安石灰,硫安と硝安の混合した硫硝安,硝安と塩化カリを反応させた硝安カリ,硝安・リン安・塩化カリを溶融したニトロホスカNitrophoska(商品名)および硝安・アンモニア・尿素を溶解し液状肥料としたものなどが硝安系肥料として用いられている。これら肥料の消費量は全窒素肥料の2%弱を占めるにすぎない。これは硝安系肥料が吸湿性であること,貯蔵中に変質しやすいこと,また爆発物の指定を受け,取扱いに規制をうけることなどが原因である。硝安の最大の欠点である吸湿して固結するのを防ぐため界面活性剤や選択吸湿剤を入れている。
硝安の特徴は土壌を酸性化したり,塩類濃度を高めるという悪影響を及ぼしにくいこと,水溶性のため速効性で吸収が速やかであること,液肥にも使えること,低温条件でもよく吸収されるので寒冷地や冬作に適すること,塩基性成分を溶脱したり吸収を妨げたりしにくいことがあげられる。また元肥にも追肥にも用いられる。一方,短所としては,土壌に吸着されにくいので雨水とともに流亡しやすいこと,水田のような還元性土壌では脱窒揮散すること,またハウス栽培などで,堆肥や有機質肥料を混用すると亜硝酸ガスが発生して障害を生ずることなどがある。石灰肥料や有機質肥料との混合はさける。
→硝酸アンモニウム
執筆者:茅野 充男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
硝酸アンモニウム(肥料)の略称.主成分NH4NO3,N = 32~34%.窒素肥料の一つ.アンモニアと硝酸とを常圧または加圧下で中和してつくる.常圧式では45% 硝酸にアンモニアを加える.中和熱で100~110 ℃ になる硝安液(65%)の一部を中和槽で再使用し,ほかを135 ℃ 以下の温度で蒸発して90% に濃縮する.加圧式では硝酸の沸点上昇のもとで中和反応を行わせ,中和熱を利用して槽内温度を155 ℃,4 atm に保つ(Fauser式).原単位は硝安1 t に対しアンモニア212 kg(100%),硝酸1480 kg(53%),肥効性はすぐれている.しかし,吸湿性と流亡性が大きいため,わが国では適さないが,配合肥料の成分として重要になった.防湿に工夫がなされ,油脂で覆ったり,石灰と混合して硝安石灰としたり,硫安(硫酸アンモニウム)を硝安の熱濃厚溶液に加えて硫硝安としている.無色,斜方晶.-18 ℃ 以下で正方晶,32.1 ℃ で別な斜方晶へ,84.2 ℃ で正方晶,125 ℃ で立方晶へと転移する.密度1.725 g cm-3.用途は窒素肥料,爆薬原料など.[別用語参照]化学肥料,化成肥料
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…化学式NH4NO3。工業部門では通常,硝安と呼ばれる。また窒素肥料としての正式名称は硝酸アンモニアである。…
… 硫安のようなアンモニウム塩の肥料は速効性なので元肥にも追肥にも用いられるが,土を酸性化しやすく,またアルカリ土壌に施用したり石灰肥料と混合するとガスになって揮散する。硝安など硝酸態の肥料も速効性で元肥にも追肥にも利用される。土を酸性化しないで,むしろアルカリ性にするが,水田に施与すると脱窒によって揮散するので用いない。…
※「硝安」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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