日本大百科全書(ニッポニカ) 「硫銀ゲルマン鉱」の意味・わかりやすい解説
硫銀ゲルマン鉱
りゅうぎんげるまんこう
argyrodite
銀(Ag)およびゲルマニウム(Ge)の複硫化物。元素ゲルマニウムは1885年ドイツ、フライベルク鉱山大学教授であり化学者であったウィンクラーによって本鉱から発見された。ゲルマニウムのスズ置換体カンフィールド鉱および銀の銅置換体プッツ鉱putzite(化学式(Cu,Ag)8-xGeS6)とともに硫銀ゲルマン鉱系列を構成する。自形は擬正八面体、擬立方体あるいはこれらの聚形(しゅうけい)(複合立体)。柱状をなすことも、あるいは集落状集合からなる皮膜をなすこともある。通常は塊状。1978年、合成物について結晶構造解析が行われるまで等軸晶系あるいは擬等軸ということになっていた。なお高温変態は等軸晶系に属する。
深~浅熱水性低温~高温生成鉱脈型銀鉱床中に産する。日本では北海道紋別(もんべつ)市沼ノ上鉱山(閉山)の浅熱水性鉱脈型金・銀鉱床から産出が確認されている。共存鉱物は脆銀(ぜいぎん)鉱、針銀鉱、濃紅銀鉱、ポリバス鉱(雑銀鉱)、ダイアフォル鉱、黄鉄鉱、白鉄鉱、閃(せん)亜鉛鉱、方鉛鉱、硫錫(りゅうしゃく)ゲルマン鉱canfieldite(Ag8-xSnS6)、石英、菱(りょう)鉄鉱など。同定は空気の影響のない内部の新鮮な部分の面でのわずかに赤味を帯びた光輝ある鉄黒色による。さびると真っ黒になって光沢を失う。脆銀鉱のようにもろく、これに類似するが、新鮮面で並べて比較すると、脆銀鉱の色には赤さがない。命名はギリシア語で「銀を含む」という意味の形容詞に由来する。
[加藤 昭 2018年12月13日]
硫銀ゲルマン鉱(データノート)
りゅうぎんげるまんこうでーたのーと
硫銀ゲルマン鉱
英名 argyrodite
化学式 Ag8-xGeS6。既知の分析値はつねにAgの不足を示し、Ag7GeS6に近いものすらある
少量成分 Sn,Fe,Zn,Sb,Se
結晶系 斜方(直方)
硬度 2.5~3
比重 6.32
色 鉄黒。わずかに赤味を帯びる。さびると真っ黒になり、赤味が失われる
光沢 金属
条痕 灰黒
劈開 無
(「劈開」の項目を参照)