日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポリバス鉱」の意味・わかりやすい解説
ポリバス鉱
ぽりばすこう
polybasite
銀(Ag)、銅(Cu)、アンチモン(Sb)の硫塩鉱物。化学式は[Ag9CuS4][(Ag,Cu)6(Sb,As)2S7]。2007年に、化学式の後半の鍵括弧(かぎかっこ)のなかの(Ag,Cu)が(Cu,Ag)となった(つまりCu>Agとなった)銅ポリバス鉱cupropolybasite(化学式[Ag9CuS4][(Cu,Ag)6(Sb,As)2S7])という新鉱物と、そのヒ素(As)置換体の銅ピアス鉱cupropearceite([Ag9CuS4][(Cu,Ag)6(As,Sb)2S7])が同時に記載された。以前は雑銀鉱という名称が一般的であったが、前者を雑銀銅鉱とするよりも、銅ポリバス鉱とよんだほうが統一性がとれるため、本百科ではポリバス鉱を採用した。ピアス鉱系鉱物の一員。三方ac型、三方2ac型、単斜(擬三方)2a2b2c型の3種類の多型がある。自形は六角板状。底面上には三方晶系の対称に従う条線が発達する。
浅~深熱水鉱脈型金・銀鉱床中に産する。日本では秋田県湯沢(ゆざわ)市院内(いんない)鉱山(閉山)、静岡県伊豆(いず)市清越(せいごし)鉱山(閉山)などから知られる。共存鉱物は自然金、自然銀、針銀鉱、脆銀(ぜいぎん)鉱、濃紅銀鉱、銀安四面銅鉱freibergite((Ag,Cu)10(Fe,Zn)2[S|(SbS3)4])、石英、方解石、苦灰石、重晶石、正長石など。同定は形態と、わずかに褐色味を帯びた条痕(じょうこん)による。命名は多種の成分の存在にちなむ。
[加藤 昭 2018年10月19日]