改訂新版 世界大百科事典 「磁気圏プラズマ波動」の意味・わかりやすい解説
磁気圏プラズマ波動 (じきけんプラズマはどう)
magnetospheric plasma waves
高温のプラズマで満たされた地球磁気圏では,アルベーン波などの電磁流体波,ホイッスラー波や静電プラズマ波など,さまざまなプラズマ特有の電磁波動が観測される。これらの波動の周波数は,ほぼ10⁻3Hzから106Hzまでの広い帯域にわたっている。
約5Hz以下の最も低い周波数帯に属する波動は,地磁気脈動として古くから知られている。周期数十秒以上(数十mHz以下)の脈動現象は,太陽風による磁気圏境界面の変形によって生じた磁気音波によって励起された磁力線の固有振動がおもな発生原因である。南北両半球をつなぐ磁力線がバイオリンの弦のように振動するのである。また赤道環電流を形成する高エネルギー陽子をエネルギー源とする長周期圧縮性脈動も磁気あらし中にしばしば観測される。短周期の脈動現象で0.2~5Hzの範囲にあるPc1脈動も,このような高エネルギー陽子のサイクロトロン共鳴不安定性によって発生する。
周波数が可聴周波域(約100Hz~20kHz)にあるELF-VLF帯には,ホイッスラーやVLF放射があり,1880年代から長距離有線通信に混信する奇妙な電波雑音として知られていた。ホイッスラーは雷放電で発生した電波のうちある帯域のもの(1~数十kHz)が電離層を突き抜け,プラズマ中を伝搬可能なモードに変換され,磁力線に沿って磁気圏内を伝搬する現象である。反対半球の電離層(電離圏)に達した波の一部は地表に達するが,電離層で反射し何回も南北両半球間を往復することもある。電子サイクロトロン周波数より低い帯域で伝搬可能な電磁波動(ホイッスラーモード)は,周波数が低いものほど遅く伝わる性質があり(分散性),このため反対半球までの伝搬の際,低い周波数のものほど遅れて到達する。受信したホイッスラー波を音に変換して聞くと,初めは音が高く,口笛を吹くように聞こえることからホイッスラーといわれている。ホイッスラーモードの波は,雷放電のほか磁気圏で自然発生しており,オーロラ電子から発生するオーロラ・ヒスや磁気圏赤道付近で高速電子流により生ずるコーラスなどのVLF放射もホイッスラー波動現象である(オーロラ)。
1970年代になって,衛星観測によってオーロラ活動と関連した新しい伝搬性の波が発見された。オーロラ電子が宇宙空間に電波を放射していることが観測されたのである。この電波の波長がkmのオーダー(周波数=数十~数百kHz)であることからオーロラ・キロメーター放射(AKR)と呼ばれている。AKRの発見で地球も,木星や土星と同じく宇宙空間に向けて電波を発射している惑星であることが明らかになった。AKRのエネルギーはオーロラ電子のエネルギーの1%以上にもなり,その発生領域は,オーロラ帯を貫く磁力線上高度数千~1万数千kmのオーロラ電子加速領域付近にあると考えられている。
磁気圏には,遠くまで情報を運ぶホイッスラー波や電磁流体波などの横波のほか,比較的狭い領域に局在し,周囲のプラズマと強く相互作用する静電(縦)プラズマ波動もいろいろ存在する。プラズマシート,カスプ領域,赤道環電流領域や極域磁力線上のオーロラ電子加速領域などでは,それぞれの領域のプラズマの状態や磁気圏あらしの発達過程などを反映し,さまざまな静電波動が発生する。低周波帯域ではイオンのサイクロトロン運動と共鳴するイオンサイクロトロン波,高周波帯域では電子サイクロトロン波,中間の帯域ではイオンと電子のサイクロトロン波の幾何平均の周波数をもつ低域混成波が代表的な波動である。これらの静電波動は,電子流の存在やプラズマ温度の異方性などのプラズマ速度分布の衡からのずれが原因で励起される。静電波動は周囲のプラズマと強く相互作用するため,オーロラ電子の生成やプラズマの加速など,磁気圏現象を起こす原因に直接結びつく場合が多く,重要な研究対象になっている。
執筆者:国分 征
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報