改訂新版 世界大百科事典 「反論権」の意味・わかりやすい解説
反論権 (はんろんけん)
right of reply
マス・メディアによって批判,攻撃,その他なんらかの形で言及された者が,当該のマス・メディアを通じて反論を行う権利。今日マス・メディアの巨大化・集中化により,送り手から疎外され,受け手の立場に固定されてしまった市民に対し,マス・メディアへの参加を保障する新しい権利として主張されるようになったアクセス権right of accessの一類型として,最近注目されるようになった。反論権に対する最近の関心を喚起する契機となった代表的な事例として,アメリカで,あるラジオ番組によって批判を受けた者が,連邦通信法の規定する〈公平原則fairness doctrine〉に基づいて反論放送時間を要求し,連邦最高裁判所で認められたレッド・ライオン放送局事件(1969)がある。日本では,1973年12月2日付朝刊に日本共産党を批判する自民党の意見広告を掲載した《サンケイ新聞》に対し,日本共産党が無料の反論広告を要求して裁判に訴える事件(サンケイ新聞意見広告事件)が起こり,関心を高めるきっかけとなった(1977年の第一審判決と80年の第二審判決では,共産党の反論権の主張は否定され,87年の最高裁判決でも上告が棄却された)。
反論権そのものの歴史は古く,フランスでは1822年の新聞法,ドイツでは31年のバーデン新聞法までさかのぼることができるといわれ,日本でも1883年改正の新聞紙条例およびこれに代わって1909年に制定された新聞紙法(1949廃止)に,新聞報道に誤りがあった場合,関係者からの要求で訂正の義務を負う〈訂正権〉の規定が設けられていた。しかし従来の反論権は,総じて公秩序の維持や新聞統制の意味が強かったのに対し,新しい関心のもとでは,人格権の保護や市民の表現の権利の保障をはかる制度としてその意味が変質してきたところに,今日の反論権問題の特徴がある。各国の反論権規定には差異がみられ,これらを国際会議などで議論,研究する動きがみられたが,大きな論点としては,(1)反論権を事実の範囲に限るか(当時の西ドイツ),あるいは意見も含めるか(フランス),(2)印刷物と放送における反論権を異なった基準で考えるか(アメリカの最高裁判決では新聞への反論権を否定した)などの点が指摘されている。
執筆者:広瀬 英彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報