神の国(読み)かみのくに(英語表記)hē basileia tou theou; Kingdom of God

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

神の国
かみのくに
hē basileia tou theou; Kingdom of God

旧約聖書,新約聖書,教会史を通じてのキリスト教の根本的信仰であり,イエスの説教の主題であった。『マルコによる福音書』1章 15に「時は満ちた,の国は近づいた。悔い改めて福音を信ぜよ」というイエスの最初の宣教の言葉が記されている。元来ユダヤ人待望されていた神の国は,全世界に及ぶ神の支配として考えられたが,同時にユダヤ民族の政治的独立や繁栄をもたらすものとされていた。しかし終末観の発達とともに地上王国の理想から超越的,超現世的なものも強調されるようになり,終末の日に審判と祝福,滅亡と救いが全人類に及ぶとされるにいたった。イエスの「神の国」はこのユダヤ教の終末観の影響を強く受けているが,貧しい者,心清き者,迫害に苦しむ者などへの神の祝福を強調し,また神の国を受けるための信仰と生き方に重点をおいているところに特色がみられる。その言葉において「神の国」が現在的なものか終末に突如として実現する超自然的なものかどうか,議論の対立するところであったが,いまでは終末論的な見方が強い。イエスはこの人知をこえて突如として実現する神の国の到来の時期については語らず,ただへりくだって神の国を待つことを強くすすめた。

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デジタル大辞泉の解説

かみ‐の‐くに【神の国】

が治める国。特に、日本のこと。神国(しんこく)。かみぐに。
キリスト教で、神の支配、また、その及ぶ所。天国
[補説]書名別項。→神の国

かみのくに【神の国】[書名]

《原題、〈ラテン〉De civitate Dei》宗教書。22巻。アウグスティヌスの主著。413年着手、426年に完成。異教からの攻撃に対し、護教的立場から書かれたキリスト教の教理論。神国論

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世界大百科事典 第2版の解説

かみのくに【神の国】

聖書における終末論にかかわる重要な概念。旧約聖書は早くからイスラエルに対する神の支配を語ったが,そこには古代東方に見られる神王の思想はふしぎなほど見いだせない。ユダヤ教の黙示文学の中でエルサレムを中心とするメシアの支配が語られたのは,ヘレニズム期の迫害に抗してであり,かつまた世の終りのこととしてであった。イエスは神の国がイエス自身において現在すると述べ,奇跡をそのしるしとして行ったが,同時にこれは信仰によらなければ知りえず,また自分がユダヤ人によって殺された後でなければ成就しないと語った。

かみのくに【神の国 De civitate Dei】

アウグスティヌスの代表作の一つで,22巻の大著西ゴート族ローマ侵入を契機に,かねて考えていたキリスト教の歴史的弁証を行ったもの。執筆は413年から427年までにわたっている。前半では,ローマの滅亡はローマが真の神を拝まないことに由来するもので,キリスト教の責任ではないこと(1~5巻),ローマとギリシア宗教は神話的・魔術的なもので,真の宗教ではないこと(6~10巻)を論じ,後半では,宇宙・天使・人類の創造と堕落(11~14巻),アダムよりキリストに至るまでの人類の歴史(15~18巻),最後の審判と神の国の実現(19~22巻)を論じている。

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大辞林 第三版の解説

かみのくに【神の国】

神が治める国。神国。日本をさす。 「 -なる我国ぞかし/続拾遺 神祇
キリスト教で、神の支配・統治する国。中世ではカトリック教会とされ、近代では、倫理的・道徳的なもの、また現実的な世の終わりの待望として理解される。

かみのくに【神の国】

アウグスティヌス著。二二巻。413~26年に成立。キリスト教への批判・攻撃に反駁して、その真理を論じたもの。神国論。

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世界大百科事典内の神の国の言及

【イエス・キリスト】より

…前1000年ころ,ダビデは油を注がれて,イスラエルの王位についている。 ところで,イエス時代のユダヤ教徒は,この世の終末のときにダビデ王の子孫からメシアが現れて,イスラエルを中心に〈神の国〉をもたらすと信じていた。このヘブライ語の〈メシア〉,正確には〈マーシアハ〉がギリシア語で〈キリスト〉(正確には〈クリストスChristos〉)と呼ばれ,日本では一般的に〈救世主〉と訳されているものである。…

【教会】より

…これら多様なイメージを通じて浮かび上がる教会の姿は,歴史のなかでさまざまの具体的な形をとる信者の共同体と,終末においてはじめて全貌をあらわす〈神秘〉あるいは霊的な現実を重ね合わせたものである。この観点からわれわれは教会とは何であるかを示唆する多様な聖書的イメージを〈神の民〉〈神の国〉〈キリストの体〉の三つにまとめ,それらを手がかりに教会の本質の理解に近づくことにする。教会は〈神の民〉であるというとき,まず思い浮かぶのは旧約聖書のイスラエルの民である。…

【キリスト教】より

…しかし,だからといってキリスト教は厭世的,現世逃避的という意味での来世宗教であるというのは正しくない。なぜなら,キリスト教でいう終末はこの世界および歴史の完成ないし成就だからであり,イエス自身が〈神の国〉についての譬(たと)えで明らかにしたように,それはある意味では“いま,ここに”現存しているからである。キリスト教は歴史の一こまとしてその役割を演じた上で,やがて消え去るのではなく,世の終末まで旅をつづけるという意味でも終末論的宗教である。…

【救い】より

… 福音書がイエスの奇跡を多く記録しているのは,出エジプトのさいの神の関与と同様である。しかしイエスは救いのできごとを示しただけでなく,〈神の国〉での生活と倫理をも示して,救いの状態が何であるかも垣間見せた。イエスの救いは十字架と復活にきわまるが,そこでは死の克服と贖罪(しよくざい)とが一つになっている。…

【天国】より

…特にユダヤ教,キリスト教,イスラムの伝統における他界観念として重要で,〈天国〉の語もkingdom of heavenの訳である。また,パラダイスparadise(ペルシア語pairidaēzaに由来し,原義は〈囲われた場所〉ないし〈園〉で,〈エデンの園〉とも同一視される)や,〈神の国kingdom of God〉と同じ意味で使われることも多い。 古代バビロニアでは,世界は天上界と地上界と冥界からなる3層の建造物と考えられ,人間の住む地上界のはるか上方には,地上をアーチ状に覆う聖なる天蓋があると信じられていた。…

【楽園】より

…かくして人類の歴史は,円環的にでなく直線的に把握され,はじめて真の意味での歴史の概念が導入されたといえるであろう。人類の歴史の究極の到達点である〈天国〉は,けっしてアダムとイブの住んだ素朴な楽園の焼直しではなく,文明の義(ただ)しい成熟の姿を示す都市,すなわち〈神の国〉でなければならなかった。 しかし神学的にはともかく人類の心情としては,地上のどこかになんらかの楽園が残っているのではないかという想像を,絶ち切ることができなかった。…

【アウグスティヌス】より

…司教としての生活は,教会の指導と修道士の教育のほか,《三位一体論》《創世記逐語解》《詩篇講解》《ヨハネ福音書講解》など,神学と聖書研究にいとまがなかったが,さらにマニ教,ドナトゥス派ペラギウス派との多年にわたる論争があり,その徹底した論議を通じてキリスト教の理解を深めていったことは特筆に値する。410年アラリックのローマ侵入を機に大著《神の国》の執筆を始め,ほぼ13年かかってこれを完成した。つづいて《再論》により,これまでの著作活動をまとめている。…

【ラテン文学】より

…313年のキリスト教公認を境に,4世紀から5世紀にかけて,《マタイによる福音書》を叙事詩にしたユウェンクスJuvencus,雄弁家ラクタンティウス,賛美歌作者で人文主義に反対した神秘主義者アンブロシウス,古代最大のキリスト教ラテン詩人プルデンティウスとその後継者ノラのパウリヌスなどが活躍したが,古代最大の2人のキリスト教作家も続いて現れた。一人は,全古典作家に精通した人文主義者である一方,聖書をラテン語に翻訳して,異教の伝統とキリスト教とを照応させたヒエロニムス,もう一人はヨーロッパ最初の自叙伝《告白》と,《神の国》などの著作で名高いアウグスティヌスである。こうみてくると,一部にアンブロシウスのような反人文主義の主張があったとはいえ,全体としてはキリスト教作家たちは古典を尊重し,これを習得研究してキリスト教思想と融合させようとしている。…

【ローマの平和】より

…こうして〈ローマの平和〉は,主として2世紀にローマの支配によってもたらされた,全般的な比較的平和状態を指す語として用いられるが,すでにこのときには〈ローマの平和〉のための祭壇はつくられず,女神ローマのための祭壇が属州各地に設置され,それが多くの場合皇帝礼拝と結合されて,ローマへの忠誠の重要な表現となった。武力支配にほかならないこのような〈ローマの平和〉の本質を根底から批判したのは,5世紀のアウグスティヌス《神の国》,とくにその第19巻で,ローマの平和を〈地上の平和〉とし,追求すべき真の価値ある平和として,支配によらない〈天上の平和〉を情熱的に論じている。【弓削 達】。…

【ローマ没落史観】より

…アンミアヌス・マルケリヌスのように道徳的堕落という伝統的原因論をとる者もいたが,異教勢力はまた帝国のキリスト教化に衰退の主因をみた。これに対してキリスト教側はキリスト教的ローマ理念をもって対抗するが,410年西ゴートによるローマ市略奪ののち,異教徒に対して最も有効な論駁(ろんばく)をなしえたのは,〈神の国〉と〈地の国〉を区別するアウグスティヌスの《神の国》であった。しかし,古代末期の知識人層は一般に地上のローマ帝国の永続を信じるローマ理念から脱却しきれず,ルティリウス・ナマティアヌスら異教徒にせよ,オロシウスらキリスト教徒にせよ,現今の老齢化が死に至るものであるとは予知せず,なお帝国の若返りを信じていた。…

※「神の国」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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