神祇令(読み)じんぎりょう

改訂新版 世界大百科事典 「神祇令」の意味・わかりやすい解説

神祇令 (じんぎりょう)

律令の中で神祇信仰にもとづく公的な祭祀の基本を定めた部分をいう。日本で最初に編纂された令である近江令,それにつぐ飛鳥浄御原令にも神祇に関する部分はあったと考えられるが,現在神祇令として知ることのできるものは,大宝令を受けついだ養老令の注釈書《令義解》によるものである。養老令では,全編のはじめに並ぶ官位・職員に関する5編についで,第6に神祇令が置かれ,僧尼令,戸令と続いている。神祇令は20条から成るが,(1)は天神地祇神祇官が欠かすことなくまつるべきであるとする総記で,(2)~(9)は,2月の祈年,3月の鎮花,4月の神衣・大忌・三枝風神,6月の月次・鎮火道饗,7月の大忌・風神,9月の神衣・神嘗,11月の相嘗・鎮魂・大嘗,12月の月次・鎮火・道饗という年間19の祭りを,神祇官が行うべきものとしてあげている。ついで(10)は,即位に際して行われる祭祀の大綱を示し,(11)(12)は斎戒についての規定を述べる。(13)は践祚の日に中臣は〈天神之寿詞〉を奏し,忌部は神璽之鏡剣を上(たてまつ)れというように,天皇の即位式の行事について記し,ついで(14)は大嘗の執行について,(15)(16)は祭祀とそれに関する事務を,(17)は奉幣についての規定をあげる。さらに(18)(19)は大祓の儀礼とその執行について記し,最後の(20)は神戸(かんべ)の納める租・庸・調や神税の用途と管理について規定している。

 以上の諸条は,宮中と伊勢神宮および神祇官にある神名帳に記載されている官社の祭祀に関するもので,神祇信仰そのものや民間の祭りに関する規定ではない。神祇令がまとめられるに際しては,唐令の中の祠令,唐律,唐礼(特に開元礼)などが参照され,中国の諸規定の影響を受けたことは明らかである。しかし,中国と日本の習俗・信仰の相違を反映して,神祇令は,祭祀の内容を神祇のみに限って祖先や妖教に関する規定を排除していること,祠令にこまかに記されている犠牲のことにふれていないこと,逆に祠令にはない即位儀礼と大祓のことをくわしく記していることなどで,唐の規定とは異なったものとなっている。したがって神祇令の内容は日本古来の伝統にもとづくものといえるが,他方,中国の制度の受容という大きな流れの中で,令制の一部をなす祭祀制度としてまとめられた点を見逃してはならない。神祇令の定めに違反した場合の罰則は,職制律に定められており,《延喜式》は神祇令の内容を具体的に知らせてくれる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神祇令」の意味・わかりやすい解説

神祇令
じんぎりょう

令の篇目。養老令では第6篇、20条からなる。神祇信仰に基づく公的儀礼の大要を定めたもので、神祇官が春夏秋冬(四時(しじ))に行う恒例の祭の一覧に始まり、即位に際し天神地祇を祀ること、官人が守るべき斎(ものいみ)の程度・内容・期間、践祚(せんそ)や大嘗(だいじょう)などの天皇代替わり儀礼のほか、官司・官人による祭祀運営の細則、中央・諸国で行われる大祓(おおはらえ)、神戸(かんべ)と神社財政などについて定める。令制以前の伝統に基づく祭祀・信仰を、天武・持統朝頃に体系化したものを骨格とする。唐の祀令に対応し、斎関連の規定など、継受関係の明らかなものもあるが、祀令には見えない天皇代替わり儀礼や大祓を含むことをはじめ、祭祀の対象を天神地祇に限定し、動物の犠牲を削除するなどの相違も多い。

[大隅清陽]

『井上光貞等校注『日本思想大系3 律令』(1977・岩波書店)』

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世界大百科事典(旧版)内の神祇令の言及

【道教】より

…したがって養老令の学令や職員令の図書寮・大学寮などの職制に,道教もしくは道教の学術典籍などに関する言及がまったく見られないのも当然であるが,しかし,それにもかかわらず道教はその面(おもて)を覆った形で養老令の中にも持ちこまれている事実が注目される。 例えば,その神祇令において〈凡そ天神地祇は神祇官皆常典に依りて祭れ〉と規定しているのがそれであり,また〈凡そ践祚の日(中略)忌部,神璽の鏡剣たてまつれ〉〈凡そ六月,十二月の晦の日の大祓には(中略)東西の文部,祓の刀たてまつりて祓詞(はらいごと)読め〉と規定しているのなどがそれである(このときの〈祓詞〉は《延喜式》巻八などに載せられているが,その内容はまったく道教的である)。また中務省に所属する陰陽(おんみよう)寮においては,陰陽頭(かみ)の職掌として〈天文,暦数,風雲の気色,異(あや)しきこと有らば,密封して奏聞せむ事〉を規定し,その属僚として〈占筮して地を相(うらな)う〉ことを職掌とする陰陽師6人,陰陽生(定員10人)を教育指導する陰陽博士1人,〈天文の気色を候(うかが)い,異しきこと有らば密封する〉ことを職掌とする天文博士1人などが記載されている。…

※「神祇令」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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