ヨゴトとは〈善い言葉〉の意で,賀詞とも書く。いわゆる言霊(ことだま)信仰に支えられて寿(ことほ)ぎ祝う言葉である。広義には《古事記》《日本書紀》の〈ほき歌〉や〈酒楽(さかほかい)の歌〉のごとき歌や,《古事記》の櫛八玉(くしやたま)神の〈御饗寿き(みあえほき)の詞(ことば)〉や《日本書紀》顕宗天皇条の〈室寿き(むろほき)の詞〉のような詞を含めるが,狭義には《延喜式》巻八〈祝詞〉所収《出雲国造神賀詞(いずものくにのみやつこのかむよごと)》と,藤原頼長の《台記別記》所収の1142年(康治1)奏上の《中臣寿詞(なかとみのよごと)》との2編をさしていう。前者は出雲の神々の祝福の言葉を国造が奏上し,後者も《神祇令》に〈凡(およ)そ践祚(せんそ)の日,中臣天神の寿詞を奏す〉とあるように,神の祝福の言葉を中臣氏が奏上した。それで善い言葉すなわちヨゴトといわれた。祝詞は神が呪(じゆ)的に宣言する言葉である点ヨゴトと共通するが,祝詞は神に向かって言う場合もある点がヨゴトとは異なる。ヨゴトはのちに〈祈る言葉〉の意ともなった。
執筆者:西宮 一民
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祭の儀式に唱えられる祝詞(のりと)のうちで、とくに祝賀の意味が濃いものを寿詞という。賀詞、吉詞とも書き、また「ほぎごと」とも読む。個人的な祝賀に用いるものとしては、新築の住宅を祝賀する「室寿詞(むろほぎのことば)」が伝えられている。公事(くじ)に用いられるものは、現御神(あきつみかみ)なる天皇に奏上する祝賀の詞である。践祚大嘗祭(せんそだいじょうさい)の辰日(たつのひ)の節会(せちえ)に神祇官(じんぎかん)の中臣(なかとみ)氏が奏上する「中臣(なかとみの)寿詞」は、「天神之(あまつかみの)寿詞」とも称し、神代以来の吉事を述べて御代(みよ)の長久を祝福するものである。藤原頼長(よりなが)の日記である『台記(たいき)』の別記に、近衛(このえ)天皇の康治(こうじ)1年(1142)の大嘗祭にあたり、神祇大副大中臣清親(おおなかとみのきよちか)が奏上した寿詞が収録されている。また『延喜式(えんぎしき)』祝詞のなかに載せる「出雲国造神(いずものくにのみやつこのかん)寿詞」は、出雲国造が新任されたとき、朝廷に参向して奏上する御代祝(みよほ)ぎの賀詞である。
[土岐昌訓]
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