大学事典 「私立大学法制」の解説
私立大学法制
しりつだいがくほうせい
the legal system on private universities
学校教育法(日本)(1947年制定)は,当該の法律の定める学校とは幼稚園,小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,大学及び高等専門学校であるとし(1条),さらにそれらを設置できるのは国,地方公共団体および私立学校法に規定する学校法人のみと規定している(2条)。このうちの学校法人の設置する学校が私立学校とされるものであり,そのあり方は私立学校法に示されている。私立学校法は,その目的を「私立学校の特性にかんがみ,その自主性を重んじ,公共性を高めることによつて,私立学校の健全な発達を図ること」(1条)として,学校法人についての通則,設立,管理,解散,助成および監督について定め,その骨格を示している。
学校の設置は,学校教育法によって「文部科学大臣の定める設備,編制その他に関する設置基準に従い」なされなければならないとされており(3条),大学についての基準には大学設置基準(1956)を基軸に,大学院(1974),短期大学(1975),大学通信教育(1981),短期大学通信教育(1982),専門職大学院(2003,括弧内は制定の年),専門職大学・専門職短期大学(2019年施行)の設置基準がある。そして私立大学の場合は,公立大学とともに,その設置・廃止,設置者の変更等において文部科学大臣による認可を受けなければならないとされており,そのことは大学そのものだけでなく,学部,大学院および大学院の研究科にも及んでいる(学校教育法4条)。学校教育法はさらに,文部科学大臣は私立大学について,公立大学とともに,設備,授業その他の事項について,法令の規定に違反していると認められるときは,必要な措置をとるべきことを勧告することができ,当該勧告に係る事項が改善されない場合には,その変更を命ずることができ,なお勧告事項が改善されない場合には,当該学校に対し,当該勧告事項に係る組織の廃止を命ずることができる,としている(15条)。
私立大学については,日本国憲法に「公金その他の公の財産は,宗教上の組織若しくは団体の使用,便益若しくは維持のため,又は公の支配に属しない慈善,教育若しくは博愛の事業に対し,これを支出し,又はその利用に供してはならない」(89条)と明記されているものの,私立学校法(日本)によって「国又は地方公共団体は,教育の振興上必要があると認める場合には,別に法律で定めるところにより,学校法人に対し,私立学校教育に関し必要な助成をすることができる」(59条)と定められ,該当の法律である私立学校振興助成法(1975年制定)は,国が私立大学等を設置する学校法人に対し,経常的経費の2分の1以内の補助ができることを定めている(4条)。この矛盾を糊塗するかのように,2006年制定の新たな教育基本法で「国及び地方公共団体は,その自主性を尊重しつつ,助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない」(8条)と規定して助成を正当化したが,違憲問題としては解決したわけではない。
また,当初は2分の1までを目途に,3分の1ほどまで増加した経常費補助は,その後は比率を下げ,現在ではほぼ1割程度の水準で推移している。国からの経常費補助を受けることによって,私立学校振興助成法にもとづき定められた省令の学校会計基準に従うことが求められるなど,一面では透明性の向上がなされ,他面では大きな拘束を受けるようになっている。
なお私立大学については,学校教育法では,同法に定める学校を設置できるのは国,地方公共団体および私立学校法に規定する学校法人のみと規定しているにもかかわらず,2002年制定の構造改革特別区域法では,「地方公共団体が,その設定する構造改革特別区域において,地域の特性を生かした教育の実施の必要性,地域産業を担う人材の育成の必要性その他の特別の事情に対応するための教育又は研究を株式会社の設置する学校」(12条)を認めるとしており,営利企業たる学校設置会社(日本)による設置を認めている。これは一般法に対する特別法の優位として法律制定の原則としては認められていることであるが,法制としての仕組みがわかり難いことも確かである。
また学校法人が設置すれば私立大学という規定は,国の出資による放送大学,地方公共団体の出資による自治医科大学のような大学も私立に分類されるという奇妙な現象を生んでいる。このことは実質的な設置者によって公私を分かつ国際標準の分類とは相いれない。また日本では国立,公立,私立と区分し,英訳をnational,public,privateとしているが,国立も英語ではpublicにあたり,それぞれをnational public,local public,privateとするのが正確である。ちなみに公立の「公」は地方公共団体の「公」からきているとみられるが,国(中央)と対置されるのは「公」の部分ではなく「地方」であるから,語呂は良くても論理的には誤りである。さらには,たとえばアメリカ合衆国では公的な経常費の補助を受けている大学はプライベートには分類されない。そして私立大学への助成は,大学に直接行う機関補助ではなく,学生への奨学金を通じての個人補助となっており,結果として私立大学を支える間接補助になっていることから,日本の私立大学助成もそうした個人補助型をとるべきだとする主張がある。
著者: 舘 昭
参考文献: 舘昭『原理原則を踏まえた大学改革を』東信堂,2013.
参考文献: 日本私立大学連盟編『私立大学マネジメント』東信堂,2009.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報