第三者のためにする契約(読み)だいさんしゃのためにするけいやく

改訂新版 世界大百科事典 「第三者のためにする契約」の意味・わかりやすい解説

第三者のためにする契約 (だいさんしゃのためにするけいやく)

たとえば,売買契約において,買主Bが売主Aの依頼により,代金をA自身にではなく第三者Cに支払うべきことをAに約束することがある。この場合,Bは,Cに対し直接に債務を負担すべきことをAに約束することになる。このように,契約(売買に限らない)の当事者一方が,第三者に対して直接に債務を負担することを契約の相手方に約束するのを〈第三者のためにする契約〉という(民法537~539条)。〈第三者のためにする契約〉は独立の契約類型ではなく,売買その他の契約において,その効果たる権利の一部が第三者について発生する特殊の態様にすぎない。一般に,上掲のAに当たる者を要約者,Bに当たる者を諾約者,Cに当たる者を受益者といい,要約者が諾約者に受益者たるべき第三者への給付を依頼するのは,要約者の受益者に対する債務を弁済するためとか,贈与するためとか,いろいろである。要約者・受益者間の関係を対価関係,要約者・諾約者間の関係を補償関係と称するが,前者は〈第三者のためにする契約〉の成立とは無関係である。

 〈第三者のためにする契約〉は,受益者たる第三者が諾約者に対し直接に契約上の権利を主張できる点に特色がある。これに対し,第三者が単に給付の利益を受けるだけで,諾約者に対する権利はもたないものを〈不真正な,第三者のためにする契約〉と称する。ある契約がこの両者のいずれであるかを,いかなる基準で判定すべきかは,一般に,むずかしい問題である。

 〈第三者のためにする契約〉は種々の場合に利用されているが,そのうち他人のための保険契約(商法648,675条,簡易生命保険法10条など),郵便為替契約(郵便為替法12条),第三者を受取人とする郵便年金契約(郵便年金法7条),第三者を受益者とする信託(信託法7条)などは法律で明示されている。弁済供託(民法494条)もそれだとされるが,否定説(別の理由に基づくとする)もある。なお,第三者の利益は負担付でもよいと解されている。

 受益者たる第三者は,直接諾約者に対して履行を請求できるが,その利益を第三者本人の意思に反してまで与えることは不都合だという考えから,第三者は彼自身の受益の意思表示によってはじめて権利を取得すると定められている(537条2項)。もっとも,上に掲げた保険,郵便為替,郵便年金,信託などでは,受益の意思表示は不要とされている。なお,第三者の取得すべき利益がなんらの負担をも伴わない場合には,要約者・諾約者の合意によって,受益の意思表示なしに当然に第三者の権利が発生する旨を定めることもできるとする説もある。

 第三者の権利の発生後は,要約者・諾約者はかってにこれを変更・消滅させることができない(538条)。しかし,第三者の権利は要約者・諾約者間の契約の所産であるから,諾約者はこの契約から生ずる取消し,解除,同時履行などの抗弁を第三者に対し主張して第三者の請求を拒むことができる(539条)。

 〈第三者のためにする契約〉は給付の簡略化・迅速化という機能をもつので,社会生活の進展に伴い,重要性を加える。銀行為替の一種である〈電信送金〉が送金受取人に被仕向銀行に対する支払請求権を与えるものであるか否かは,大いに争われた。判例は消極説に固まったようだが,学説ではむしろ積極説が優勢のようである。同じく銀行為替に属する〈振込み〉においては,受取人が被仕向店に対し預金債権を取得することが認められるが,銀行筋ではその理由を約款の定めや慣習に求めるのに対し,学説では,振込みが〈第三者のためにする契約〉ないしこれに準ずる制度であるという当然の事理に基づくとする見解も有力である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「第三者のためにする契約」の意味・わかりやすい解説

第三者のためにする契約
だいさんしゃのためにするけいやく

契約当事者の一方(諾約者)が他方当事者(要約者)に、第三者(受益者)に対して直接に債務を負担することを約する契約(たとえば、甲が丙に対して建物を贈与することを乙に約束するなど)。この場合の第三者の権利は、第三者が諾約者に対して契約の利益を享受する意思を表示したときに発生し(民法537条2項)、債務者に対して直接に給付を請求することができる(同条1項)。ただし、保険、郵便年金、信託のような特別の場合には、法律によって受益の意思表示は不要とされている。第三者のためにする契約がなされて、第三者の権利が発生したのちは、当事者(要約者、諾約者)はこれを変更、消滅させることができない(同法538条)。

[淡路剛久]

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