精子バンク(読み)せいしばんく

共同通信ニュース用語解説 「精子バンク」の解説

精子バンク

無精子症など男性側に不妊の原因がある夫婦が子どもを持つために利用できるよう、第三者から提供された精子を収集・保管する組織。提供された精子は機能や感染症などを検査した後、凍結保存する。日本産科婦人科学会匿名で提供された精子による人工授精を12施設で認め、年100人前後が生まれているとされる。この枠組みとは別に、みらい生命研究所など2施設が匿名に限らない精子提供者の募集を始めた。近年デンマークにある世界最大の運営企業が日本に相談窓口を開設、夫が無精子症の女性に加え、子どもを持ちたい独身女性や性的少数者らが利用する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「精子バンク」の意味・わかりやすい解説

精子バンク
せいしばんく

おもに男性側に原因のある不妊カップルに、生殖補助医療により子をもうけるため第三者の精子を提供する組織。提供者の募集と登録、精子の採取・保存と配送を行う。シングル女性や同性カップルにも提供されることがある。

 精子バンク活動が盛んなアメリカでは、全国に150のバンクがあるとされ、精子の提供は有償で行われる。提供者の詳しいプロフィールを提示するところが多く、容姿や知的・身体的能力が優れた人を選ぶ優生思想を助長するとの批判もある。ヨーロッパでは、1981年にデンマークで設立された「クリオス」が急成長し、日本を含め100か国以上に精子を提供する世界最大手となっている。これらの精子バンクは営利組織として運営されているが、フランスでは非営利のバンク連合体が1981年に発足、全国に31か所の拠点が主要公立病院に置かれている。フランスでは精子の提供は無償とされ、各バンク拠点は1994年の立法で国の許可制により管理されている。

 日本では、第三者の精子提供はごく一部の大学病院などでしか行われず、精子バンクも存在しなかった。しかし1996年(平成8)に有償の精子提供を行う斡旋(あっせん)組織が活動を始めたため、日本産科婦人科学会が1997年に会告『「非配偶者間人工授精と精子提供」に関する見解』を出し、営利目的での精子提供に関与しないこと、精子提供による非配偶者間人工授精(AID:artificial insemination with donor's semen)の実施施設は学会に登録することを求めた。2021年(令和3)現在、第三者の精子提供による人工授精を行う学会登録施設は全国で12あるが、近年は提供者が少なくなり実施数が減っていた。

 こうしたなか2021年4月に、日本で初めて民間精子バンクが設立された。独協医科大学の協力により20代から40代の医療関係者に限って提供者を募る。提供者には協力金を支払い、学会登録医療機関に一件15万円程度で精子を提供するという。

 ただ日本では精子の売買は法的に禁止されておらず、協力金の額によっては事実上有償取引になり倫理的に問題になるおそれがある。また精子提供にかかわる当事者の同意は書面によるのか口頭でもいいのか、同意記録は何年間保存しなければならないのかといった重要事項について、公的な決まりはない。さらに学会の会告では精子提供者は匿名としているが、生まれた子が提供者の素性、いわゆる「出自」を知ることができないのは問題だとする議論もある。海外では、子が提供者の素性を知る権利を法律で認めている国が多い。日本で精子バンクの活動を適正に行うためには、こうした点について明確な法規範を定める必要がある。

[橳島次郎 2022年6月22日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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