改訂新版 世界大百科事典 「精神生理学」の意味・わかりやすい解説
精神生理学 (せいしんせいりがく)
psychophysiology
人の正常な行動や精神活動あるいは病的な精神状態の身体的側面を生理学的に研究する学問をいい,精神機能を営むうえで基盤となっている生理学的な機序を解明することを目的とする。研究対象は,知覚刺激や情動刺激に対する感覚や認知機能,応答や学習などの精神作業,感覚遮断,条件反射,睡眠や断眠,催眠や禅,意識障害,統合失調症の自閉や無為,躁うつ病の気分の高揚や抑うつ,てんかん発作,アルコール依存での振戦せん妄など,正常精神現象と異常精神現象のすべてにわたっている。1930年代から脳波が実用に供され,意識障害の判定,てんかんの発作や挿間症の研究に有用であったが,60年代からは脳波に加えて心電図,筋電図,眼球運動,呼吸,皮膚電気反射,脈波などを同時記録するポリグラフィーが発達し,精神生理学の隆盛をみた。ポリグラフィーによる成果としては,睡眠におけるレム睡眠とノンレム睡眠の発見(1956),振戦せん妄や他のせん妄における変形したレム睡眠の発見(1973),睡眠時無呼吸症候群などの睡眠関連疾患の発見(1974)などがあり,生体リズムとその異常についての研究も盛んとなった。統合失調症については島薗安雄らの眼球運動による研究(1966)が特筆されている。また,電子工学の発達は加算による活動電位の解析を容易にし,contigent negative variation(CNV)などの準備電位の存在を明らかにした。
執筆者:石黒 健夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報