一般的には,年貢などを納める所またはそれを扱う人,とくに寺院の物品の収納や会計などの寺務を行う所または人をさす。11世紀中葉から12世紀中葉の平安中期には,次の4種の意味をもつ納所があった。(1)封戸(ふこ)からの収納物の輸送のために港湾に設けられた中継的倉庫,(2)郡・郷や荘園などに付属する収納庫,(3)寺院や貴族・武士など家政の規模の大きい人々の邸宅などに設けられた倉庫,(4)国衙領や荘園内の徴税単位としての農民的納所である。
重要なのは(1)で,すでに11世紀中ごろには近江国の大津,山城国の木津,淀津,山崎津などに諸国の租税や荘園の年貢物を収納する納所が多数立ち並んでいた。これらの納所の中には〈倉並納所〉(多数の倉庫が並んでいる納所の意)などという倉庫業者にふさわしい仮名(けみよう)(本名を隠して仮につけた名)を名のるものもあった。これら港津の納所は単なる倉庫業にとどまらず,しだいに租税徴収の請負い,役所など納入先への代納,収納物の交易(きようやく)・売買などの業務をも行うようになり,商人的性格を強めていった。鎌倉・室町時代の港湾の問丸は,この納所の発展したものと考えられる。このような納所の源流は,奈良時代の調邸などという国ごとの調庸物収納のための倉庫にあるが,律令制の衰退とともに民部省など諸国からの納入物を取り扱う役所の下級役人が,納入物の収納を私的に請け負うようになったのが,港湾の納所のはじまりと考えられる。なお納所の得分(収入)は11世紀の東大寺の封戸物などを扱う納所の例でいうと,取り扱う品物の1割程度のものであった。(3)については専業の管理者がいることが多い。江戸時代に寺院の会計などを担当する下級の僧侶を納所坊主という場合があるが,それはこの意味の納所の管理者から発する語である。(4)の納所は,平安時代に律令国家の国・郡・郷を単位とした徴税機構が,名(みよう)を単位とするものに転換した際に,その過渡期の徴税単位として機能した。納所には納所預(あずかり)がおり,彼の名(な)が納所に冠せられ,貢納物を管理するとともに郷司に隷属して,それぞれの本主のもとへ貢納物を運送した。納所預には一定の得分と納入義務を負う農民に支配的地位の認められたものもいる。納所を媒介としてその後の領主名,百姓名が成立したと考えられる。
執筆者:吉田 晶+大石 直正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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