素謡(読み)スウタイ

デジタル大辞泉 「素謡」の意味・読み・例文・類語

す‐うたい〔‐うたひ〕【素謡】

能の略式演奏の一。囃子はやしも舞もなく、謡曲だけを正座して謡うこと。1曲全部を謡う番謡ばんうたいと、一部分を謡う小謡こうたいとがある。

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精選版 日本国語大辞典 「素謡」の意味・読み・例文・類語

す‐うたい‥うたひ【素謡】

  1. 〘 名詞 〙 鼓、笛などの囃子(はやし)や舞を伴わないで、謡曲だけをうたうこと。
    1. [初出の実例]「すうたひや火燵のふちを拍子取(とり)」(出典:俳諧・俳諧勧進牒(1691)下)

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改訂新版 世界大百科事典 「素謡」の意味・わかりやすい解説

素謡 (すうたい)

能の用語で略式の上演形式の一つ。能は,声楽),囃子(器楽),所作(身体動作)の三つの演技要素を主としているが,そのうちの謡部分のみを奏することをいう。謡本に従って全曲奏されるが,アイの部分はつねに省略され,ワキツレの部分の省略もある。また,上演時間短縮のために,〈クリ・サシ・クセ抜き〉というような大幅な省略が行われることもある。演者紋付袴姿で,シテ,ツレ,ワキ,地謡などに分かれて演奏するが,つねにシテ方(またはワキ方)だけで奏され,囃子方など他の専門の役は参加しない。したがって,能の場合と謡い方,とくにリズムの取り方に大きな違いがある。素謡のときシテやワキなどの役が地謡を謡うことがあるが,正式のやり方ではない。謡うときは扇を持って謡う。酒宴の席で能の一部を謡い舞うことは室町時代から行われていたが,あくまでも余興的なもので,現在のような鑑賞芸ではなかったようだ。しかし,こうした〈座敷謡〉として謡が伝承されていたために,《砧》《大原御幸(おはらごこう)》などのように一時能としての上演がとだえながら復活した曲もある。江戸時代に入って素謡が一般に普及すると,謡教授を専門とする能役者も生まれ,〈謡講〉なども盛んに行われた。このため,テキストである〈謡本〉の版行が盛んとなり,謡本は江戸期を通じてのベストセラーとなった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「素謡」の意味・わかりやすい解説

素謡
すうたい

能の略式演奏の一つ。型、囃子(はやし)を加えず、謡だけを演奏すること。番謡(ばんうたい)ともいう。リズムの規制のやかましい能の場合と異なり、謡の節の味わいを優先させた謡い方が普通。シテ・ワキなどの役を分担するが、ワキ・ワキツレの役はシテの流儀で謡い、間(あい)狂言の役は省略され、間狂言との対話の部分も謡われない。演能から疎外された町人階級も素謡の稽古(けいこ)は自由であったから、江戸時代から素謡専門の師匠が生まれ、大いに流行をみ、素謡用テキストである謡本(うたいぼん)の刊行はおびただしい数に上った。謡本と扇さえあれば比較的簡便に習得できるため、能の鑑賞とは別個の形で、今日も各地に盛んである。

[増田正造]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「素謡」の意味・わかりやすい解説

素謡
すうたい

謡の演奏形式の名称。囃子,所作を伴わずに能の謡だけを演奏するもの。紋付に袴または裃 (かみしも) を着た演者が舞台に2列に並んでうたう。地謡の並ぶなかにシテ,ワキなどの役者も連なった形で,シテは地頭 (じがしら) を兼ねることもある。

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百科事典マイペディア 「素謡」の意味・わかりやすい解説

素謡【すうたい】

能の略式演奏様式。番謡とも。型(所作),囃子(はやし)を加えず謡だけを演奏する。紋付袴(はかま),または裃(かみしも)姿で扇を携えて謡う。能が武家に専有化された江戸時代も,素謡は町人の間に流行し,謡本の刊行は江戸末期までに1500種にも及んだ。

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世界大百科事典(旧版)内の素謡の言及

【素】より

…日本の音楽や舞踊で用いることば。〈素〉の意味はもともと,飾り気がなく,それ自身ということで,音楽の面では〈素唄(すうた)〉〈素謡(すうたい)〉〈素浄瑠璃〉〈素語り〉〈素で演奏する〉などと用いられる。長唄に関していえば,芝居から離れた純演奏会様式のものを〈素唄〉といい,また囃子なしで,三味線の伴奏だけで奏することを〈素〉ともいう。…

【能】より

…(6)素囃子(すばやし) 囃子方だけで囃子事を奏する。(7)素謡(すうたい) 座したまま,囃子なしに全曲を謡う。(8)独吟,連吟 座してクセ,ノリ地などの謡いどころを謡う。…

※「素謡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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