ある経済量が増大するに伴い、納税額のその経済量に対する比率が上昇するような税をいう。逆進税に対する概念である。累進税は、通常はその税の課税標準の額が大きくなるに伴って、税額の課税標準に対する比率が高くなるような税をさす。しかし、税法上の課税標準ではなく、経済的観点からみて当然課税対象であるべき量との比較において累進税を定義することもある。
現代の税制において典型的な累進税は個人所得税であり、ほとんどの資本主義国が個人所得税には累進税制度を取り入れている。これは、累進税制度が、税負担の公平性、とくに垂直的公平の実現に効力を発揮すると期待されているからである。一般に、課税所得を数段階に分割し、課税所得の上昇とともに限界税率も上昇する仕組みがとられている。
しかし、現実には、貯蓄の促進のような特定の政策目的の達成とか、税務行政上把握が困難であるなどの理由により、経済的には所得とみなされるべきであるにもかかわらず、まったく課税されない所得、または他の所得と分離して、より低率な比例税率で課税される所得などがある。そして、このような所得は、一般に高額所得者ほどその所得に占める割合が大きくなっている。したがって、税法に規定された税率構造においては累進税であっても、経済的な所得をすべて課税所得に加えて包括的所得を算出し、それに対する実質負担率を計算してみると、その累進性は大幅に後退するのみか、逆進税の性格さえも帯びる場合が多い。このような課税標準の侵食(エロージョンelosion)が、わが国においても、個人所得税制度への不公平感を増長する一つの重要な原因となっているのである。
[林 正寿]
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