日本大百科全書(ニッポニカ) 「経済静学・経済動学」の意味・わかりやすい解説
経済静学・経済動学
けいざいせいがくけいざいどうがく
economic statics,economic dynamics
経済理論の手法の二分法であるが、その定義は学者によってかなり異なる。
学説史上この二分法によって壮大な経済学体系を樹立したのは、J・A・シュンペーターが最初であろう。彼は、消費者の欲望状態、技術、人口、資本などの与件を一定とし、競争を行き着かせた状態を静態と名づけた。ついで、この与件のなかで純粋に経済的である資本が、革新と結び付いて増大し、それによって経済が変動する状態を動態とした。それぞれを研究するのが静学と動学であり、前者は静止的な一般均衡と経済循環を、後者は景気変動と経済発展を主として扱うものとした。
第二の二分法はJ・R・ヒックスにみられる。彼は、経済諸量が日付dateをもたず、同量の経済活動が繰り返されるにすぎない状態を扱うものを静学、それが日付をもち、したがって将来に関する予想のもとで動く状態を扱うものを動学とした。その結果、動学は異時点間の経済諸量の相互依存関係を扱うこととなる。
第三はR・A・K・フリッシュである。彼は、たとえば需要・供給の法則において、いかなる価格においていかなる需給量が均等するかを分析するものを静学、需給が不一致の場合、それがどのように価格を変動させて需給均等に至るか、あるいは至らないか、その調整速度と経過を分析するものを動学とした。前者は均衡条件論であり、後者は安定条件論と経過分析にほかならないが、これをさらに方法論的に厳密化したのがP・A・サミュエルソンである。
以上はいずれも純粋理論のうえでの二分法であったが、より現実分析のための二分法を提起したのがR・F・ハロッドである。彼は、経済成長率が一定の経済を分析する手法を静学、成長率が変動する経済を分析するものを動学とした。この二分法によって経済成長論が開拓されるに至ったことを考えると、もっとも重要な分類といえるであろう。
いずれにしても二分法は、それ自身のための分類ではなく、それによってどのような分析が可能になるか、分析の射程距離がどれほど広がるかにかかわるものである。
[一杉哲也]
『P・A・サミュエルソン著、佐藤隆三訳『経済分析の基礎』(1986・勁草書房)』▽『R・F・ハロッド著、宮崎義一訳『経済動学』(2000・丸善)』▽『J・A・シュムペーター著、塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳『経済発展の理論』全2冊(岩波文庫)』▽『J・R・ヒックス著、安井琢磨・熊谷尚夫訳『価値と資本』全2冊(岩波文庫)』