結晶成長(読み)けっしょうせいちょう(英語表記)crystal growth
crystallization

改訂新版 世界大百科事典 「結晶成長」の意味・わかりやすい解説

結晶成長 (けっしょうせいちょう)
crystal growth
crystallization

ミョウバン炭酸ナトリウム,食塩,ハイポ(チオ硫酸ナトリウム)を水に溶かし長時間密栓せずに放置すると,容器の底にそれぞれの特有な外形をもった固体(結晶)が出現し,しだいに大きくなっていく。そのままさらに放置すると,それぞれの個体はやがて互いに接触・固着して一塊となる。北国では冬の朝さまざまな形をした霜が窓ガラスについているのを見かけるし,また,軒端には日ごとに長さを増すつららを見受ける。長時間冷蔵庫中に放置された氷は条件によっては最初と後で氷の粒径,数に差を生ずる。この現象は氷河などでも見いだされている。このように,結晶成長とは気体,液体,あるいは固体の中から新たに結晶が発生し大きくなる,あるいは多結晶中の粒子が大きくなること,またはその過程をいう。単結晶のみならず,多結晶についても用いる。結晶成長は身のまわりに数多く見受けるとともに,その結果としての結晶は天然には鉱物結晶として,人工的に成長させた結晶は電子工業用や装飾用の人工宝石としてなど数多く使用されている。

 上例からもわかるように,結晶成長は結晶化直前の環境状態から三つに大別される。(1)気相--水蒸気などのガス状態,気体どうしの反応など,(2)液相--(a)融体の固化 水が氷になるなど,(b)溶液からの析出 ミョウバンや食塩水よりの析出,(3)固相--氷河中の氷粒の成長など。いずれの場合も,結晶化の過程は,(1)核(結晶の心となるきわめて微小な粒子,大きさはたかだかnmのオーダー)の発生,核の挿入もしくは種子の挿入,次いで,(2)その上への原子,分子などの付着による核あるいは種子の拡大・成長,の2過程からなる。核発生過程は,原子や分子などが温度,圧力,濃度等の条件変動によって離合・集散していた粒子群の一部に,ある大きさを超えるものが出現する過程である。一般には低温,高圧,高濃度ほど核が発生しやすくなる。したがって,温度,圧力,濃度を制御することにより,核の多少を制御することができる。また,不純物,微粒子の添加は核の発生を助長する。発生した核,種子に対して物質の供給が続く間,核あるいは種子表面に規則正しく原子,分子が付着・整列していく。添加挿入された微粒子,よごれた容器壁,あるいは成長結晶種との兼合いによってある種の容器壁上に,核と同様に成長が進む。核発生の状態に比べ温度があまり低温であったり,濃度があまり濃かったりすると,不必要な核の発生が起こったり単一の結晶粒が成長しなかったり,あるいは樹枝状晶デンドライト)が成長したりする。そこで核を自然に発生させるかわりに,核に代わるもの,あるいはすでに大きく育った結晶を入れることによって,よけいな核の発生をさけ,大型の単結晶を得ることができる。添加・挿入される結晶と成長結晶が異種であっても,格子定数などの特定条件下ではエピタキシャル成長と呼ばれる成長が進む(エピタキシー)。現在は同種結晶についてもエピタキシャル成長という。最近,超高真空中で分子線を使用したエピタキシー(分子線エピタキシー)が注目されている。

 結晶が成長しつづけるには,臨界値以上の温度の低下(過冷却度),濃度の上昇(過飽和度)が必要である。これらの値が臨界値以上でも,現実の結晶成長速度は計算値に合致しない。これは現実の結晶成長に際して,成長面にある結晶格子のオーダーのステップやらせん転位転位)のもつステップによる成長を考えることが必要であることを示す。この現象は実際に観測されるとともにコンピューターシミュレーションも行われている。固相の場合は,上記とやや趣を異にする。表に成長環境別に分類し比較して示す。

 現在の工業用大型単結晶は,結晶成長法は異なってもこのように種子になる結晶を用いる種子結晶法を採用している。また小さい結晶,例えば砂糖や食塩など,あるいは医薬品などは,成長条件や発生する核の数を制御して大きさをそろえている。結晶成長方法は,それぞれ特徴のある多くの方法があるが,成長させる材料との適合が重要である。表にはその分類と適用例をまとめて示してある。

 工業的に使用される大型単結晶は,種子結晶を使用する方法--引上げ法,帯域溶融法,種子結晶ブリッジマン法など--と,種子結晶を使用しない方法--ブリッジマン法,自然核発生を利用する溶液法,パイパー法など--によっている。通常,工業用や装飾用には成長した結晶を切断,研磨等の加工を行って使用する。このような加工をせず成長したままで使用するためには,エピタキシャル成長やEFG法が使用されている。集積回路の素子の場合では,100mm径から150mm径の単結晶に育成したSiを0.6~0.8mm程度に切断後,研磨,鏡面研磨し0.5~0.6mmのウェーハーとして使用する。一部の種類の集積回路素子は,上記ウェーハー上に5~20μm厚のSiを気相でエピタキシャル成長させたエピタキシャルウェーハーを使用する。電力用素子や小信号増幅用個別素子用は,76mm径から125mm径,厚さ0.4~0.6mm程度に加工したウェーハーが使用されている。

 結晶を成長させるに当たっての問題は,形と質の制御である。形は大きくすることばかりでなく,目的とする形状に合わせて成長させることが必要である。質としては,成分,不純物,結晶欠陥(格子欠陥)とその分布を制御することが要求されている。このためには,成長結晶に対する観察,分析,測定を注意深く行うとともに,そのデータを結晶成長方法,条件に戻す必要がある。最近では,コンピューターを用いたシミュレーション実験が盛んになっている。

 結晶成長の研究は,天然の鉱物の成長の観察と考察から始まった。特に宝石の再現の試みが成長技術発展のもとになった。しかしながら,現在主流の方法は,必ずしも天然鉱物の成長とは一致しないから注意を要する。特に時間的な差が大きいことと,天然鉱物は溶液成長と固相成長が主であることである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「結晶成長」の意味・わかりやすい解説

結晶成長
けっしょうせいちょう
crystal growth

結晶構造をもつ物質が,気相,液相,溶液,非晶質などから結晶核を生じ,それが次第に大きい結晶になることを総称していう。狭義には,結晶核が成長することをさし,結晶核生成と結晶成長とに分けて扱う。結晶核形成は過冷却 (過飽和) がある程度に達したとき最も速いが,容器の壁や異物がもとになって核が形成される場合も多い。結晶成長速度は一般に核形成よりも小さい過冷却度のときに速い。成長速度の速い場合,成長は物質の拡散や潜熱の伝達などの輸送現象に支配され,樹枝状晶となる。過冷却度が小さく成長速度の遅い場合,結晶構造に特有な結晶面が結晶の表面となり,規則的な外形となる。このとき結晶表面には渦巻模様がしばしば現れる。 (→渦巻成長 )

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化学辞典 第2版 「結晶成長」の解説

結晶成長
ケッショウセイチョウ
crystal growth

単結晶の質量と体積とが同時に増加すること.蒸気からの凝縮(気相成長),融液からの凝固(融液成長),溶液からの析出(溶液成長)などにより成長する.結晶化の現象は,結晶の核形成と結晶の成長との二つの過程に分けて考えられるが,普通は核形成と成長とを含めた,単結晶としての成長を結晶成長とよぶ.過飽和状態のもとで,局所的に,ある臨界の大きさをもった結晶核が生成し,熱輸送と物質輸送との結果として,結晶核と気相(または液相)との境界面が有限の速度で進行する過程である.とくに過飽和状態の小さな場合には,結晶表面に顔を出したらせん転位に伴うステップが,結晶の成長中心として重要な役割を果たすことが知られている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の結晶成長の言及

【晶析】より

…晶出ともいう。通常は液相から固相が単結晶として析出する現象をいうが,広義には,凝集物の析出現象や気相からの固相の析出(逆昇華)も,その機構がほぼ同一視されるためこれに含めることがある。 液相からの晶析には,水からの氷の晶析のような一成分系(融液)からの析出現象と,ショ糖水溶液からのショ糖の晶析のような溶液からの溶質成分の析出現象とがある。このような液相からの晶析現象を温度とともに飽和濃度が大きくなる溶液系を例に説明する。…

※「結晶成長」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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