結節性硬化症(読み)ケッセツセイコウカショウ

内科学 第10版 「結節性硬化症」の解説

結節性硬化症(Pringle病)(ファコマトーシス(母斑症、神経皮膚症候群))

(3)結節性硬化症(tuberous sclerosis,Pringle病)(Roachら,1998)
定義・概念
 顔面の血管線維腫,精神遅滞,てんかん主徴とし,大脳・腎臓・心臓・肺などの臓器に形成異常や過誤腫を呈する常染色体優性遺伝を示す疾患である.
病因・疫学・病態
 TSC1遺伝子(Hamartin; 9q34)とTSC2遺伝子(Tub­erin; 16p13.3)の2つの原因遺伝子が同定されている.頻度は7000人に1人であるが,新規の突然変異による孤発例が2/3である.
臨床症状
 結節性硬化症の主要病変と臨床症状を表15-13-3に示す(Gutmannら,1997).同一家系内でも,患者の表現形の差が大きいのが特徴であり,すべての病変がそろわなくとも,病変が複数認められれば,本症と診断される.
検査成績
 大脳皮質結節は,頭部MRIにて皮質の肥厚,皮質下白質のT2強調・FLAIR高信号の所見を呈し,まれに石灰化を伴う.また,大脳白質のradial migration lineも本症に特徴的な所見である(図15-13-14A).側脳室周囲上衣下結節は,頭部CTにて,脳室周囲の点状の石灰化像として描出される(図15-13-14B).腎血管筋脂肪腫は腹部超音波検査にてある程度評価が可能であるが,詳細な評価にはCTまたはMRIを施行し,内部構造が不均一な腫瘍として認められる(図15-13-14C).
治療
 てんかんに対しては抗痙攣薬による治療が行われるが,しばしば治療抵抗性であることが多い.腎血管筋脂肪腫は4 cm以上では,出血などの危険を伴うため継続的な評価が必要となり,外科的切除や選択的動脈塞栓術の適応となる.
予後
 患者間で表現形の差が大きく,個々の合併症による.[岡 明]
■文献
Gutmann DH, Aylsworth A, et al: The diagnostic evaluation and multidisciplinary management of neurofibromatosis 1 and neurofibromatosis 2. JAMA, 278: 51-57, 1997.
Neurofibromatosis. Conference statement. National Institutes of Health Consensus Development Conference. Arch Neurol, 45: 575-578, 1988.
Roach ES, Gomez MR, et al: Tuberous sclerosis complex consensus conference: revised clinical diagnostic criteria. J Child Neurol, 13: 624-628, 1998.
執印太郎:フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病診療ガイドライン,中外医学社,東京,2011.
Thiele EA, Korf BR: Phakomatoses and allied conditions. In: Swaiman’s Pediatirc Neurology: Principles and Practice, 4th ed (Swaiman KF, Ashwal S, et al eds), pp497-517, Mosby, Philadelphia, 2012.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「結節性硬化症」の意味・わかりやすい解説

結節性硬化症
けっせつせいこうかしょう

皮膚とくに顔面に脂腺腫(しせんしゅ)を主体とする血管線維腫を伴い、神経系も侵されるほか、腎臓(じんぞう)や肺などの臓器ほか全身に過誤腫とよばれる腫瘍(しゅよう)に似た良性の腫瘤(しゅりゅう)を伴う遺伝性疾患。英語名称はtuberous sclerosis complexで、略称TSC。常染色体顕性遺伝する。小児の発症が多くみられたため、かつては精神遅滞(知的障害)、顔面血管線維腫(頬(ほお)にできるにきびに似た隆起病変)、てんかん発作の3徴候をもって診断されてきたが、これらの徴候を伴わない症例も確認されているため、現在では全身の諸症状によって診断される。年齢によって症状は異なり、生後すぐには皮膚に楕円(だえん)形の白いあざ(白斑)がみられ、新生児期では心肥大や不整脈がみられるが成長するにつれて寛解する。乳幼児期にはてんかん発作や知的障害、学童期には顔面血管線維腫を伴い、全体にてんかん発作が多くみられるが小児以外の発症ではこれらを伴わないことがある。CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴映像法)などの画像診断で脳に結節がみられることがこの疾患名の由来となっており、脳細胞の発生異常が疑われている。皮膚では足の爪(つめ)や手に硬い腫瘤ができ、腰部などに隆起状病変を認め、徐々に増大することがある。腎臓では嚢腫(のうしゅ)のほか血管・筋・脂肪成分の増殖による腎血管筋脂肪腫がみられ、腎機能障害や高血圧症のほか、出血に激痛を伴って出血ショックに陥ることがある。肺ではとくに20歳以降の若い女性にリンパ脈管筋腫症(LAM:Lymphangioleiomyomatosis)がみられ、進行すると呼吸不全から死に至ることもある。そのほか子宮筋腫や卵巣嚢腫、内分泌系の疾患として甲状腺腫などのほか、全身の臓器にわたって種々の病変が認められる。

[編集部]

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家庭医学館 「結節性硬化症」の解説

けっせつせいこうかしょう【結節性硬化症 Tuberous Sclerosis】

[どんな病気か]
 てんかん発作(ほっさ)、知能障害、皮膚症状を示す病気です。
 てんかんは、乳児期にウエスト症候群(しょうこうぐん)(コラム「ウエスト症候群(点頭てんかん)」)で発症することがあります。成長後も、ほかの型のてんかんを合併する頻度が高く、しかも難治(なんち)のことがしばしばです。
 皮膚症状は、乳児期にはからだに不整型な白斑(はくはん)がいくつかみられるだけですが、4~5歳ごろから顔、とくに頬(ほお)に血管線維腫(けっかんせんいしゅ)と呼ばれるにきびのような皮疹(ひしん)が出現し、しだいに数が増えてきます。
 そのほか、新生児期に心雑音から心臓の腫瘍(しゅよう)が発見されたり、嚢胞腎(のうほうじん)が見つかったりします。
[治療]
 根本的な治療法はありません。てんかん発作をコントロールすることがいちばんたいせつです。また、定期的に腎臓(じんぞう)や眼底(がんてい)の検査を行なう必要があります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「結節性硬化症」の意味・わかりやすい解説

結節性硬化症
けっせつせいこうかしょう

「プリングル病」のページをご覧ください。

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