イグサ、稲藁(いねわら)、マコモなどの茎を材料にして編んでつくった笠。その形態には、材質、用途によって、円錐(えんすい)形、円錐台形、帽子形、円筒形、漏斗(じょうご)形、二つ折形など6型がある。着用装置は一般に簡単で、紐(ひも)をつけて結ぶだけのものが多い。平安時代に武士が着用した綾(あや)編みで頂部に巾子(こじ)(突起)のある綾藺(あやい)笠、江戸時代に武士のかぶった熊谷(くまがい)笠・十符(とふの)編笠、編目の緻密(ちみつ)な目狭(めせき)笠、深く顔を隠す深編笠、武士の微行用の忍(しのび)笠、半月形に二つ折りにする折編笠、頂辺が山なりになる富士颪(おろし)、一直線をなす一文字(いちもんじ)、前下がりにかぶる伏(ふし)編笠、江戸時代後期、虚無僧(こむそう)の着用した天蓋(てんがい)、霊場巡拝に行者の着装した六部(ろくぶ)笠など、いずれも編笠の類であった。また、貞享(じょうきょう)・元禄(げんろく)年間(1684~1704)ごろには、京都の島原(しまばら)や江戸の吉原(よしわら)など遊女町の入口には茶屋があって、遊客はここで焼印(やきいん)編笠を借り、顔を隠して大門を入ったので、この茶屋を編笠茶屋と称したという。
編笠は、かつて、北は北海道から南は薩南(さつなん)の島々まで、広く日本全土にわたって分布し、ことに東日本の太平洋側および西日本の日本海側、瀬戸内海側各地に濃密に分布していた。なお、編笠の呼び名としては、材質によりイガサなど、形状によりオリアミガサ、ボッチガサなど、用途によりヒガサなど、用いる人によりセンドウガサ、トリオイガサなど、種々ある。
編笠は、古くは男女にわたって着用されたが、現在、一般には、女性が農耕、行商、網引きなどの日よけ笠として用い、男性は葬送、祭礼、盆踊りなど特殊の場合にかぶるにすぎない。
[宮本瑞夫]
『宮本馨太郎著『民具研究の軌跡』(1977・柏書房)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…江戸時代に入ると,形,材質の違いから,また身分,職業,用途によってさまざまな種類の笠が生まれ,武士はもとより町人,農民など男女を問わず広く用いられた。材料から藺笠,菅笠,竹笠,檜(ひ)笠,藤笠などと呼ばれ,製作上からは編笠,縫笠,組笠,網代(あじろ)笠,塗笠,張笠,綾藺笠などがあった。形の上から平笠,尖(とがり)笠,褄折(つまおり)笠,桔梗(ききよう)笠などがあり,用途上から雨笠,陽笠,祭りや踊りに用いる花笠,戦陣で下級武士のかぶった陣笠や騎射に用いた騎射笠などと呼ばれるものがあった。…
※「編笠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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