盆踊(読み)ぼんおどり

精選版 日本国語大辞典 「盆踊」の意味・読み・例文・類語

ぼん‐おどり‥をどり【盆踊】

  1. 〘 名詞 〙 盂蘭盆の時期に、男女が歌や音頭に合わせてする踊り。本来は迎える精霊の慰霊と魂送りとを兼ねあわせたものといわれる。《 季語・秋 》
    1. 盆踊〈難波鑑〉
      盆踊〈難波鑑〉
    2. [初出の実例]「子とも之盆おとりなどは各別、其外町人寄合、道辻にて往還をさまたげ、踊り候もの有之候はば、曲事可申付者也」(出典:御触書寛保集成‐四五・貞享二年(1685)七月)

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改訂新版 世界大百科事典 「盆踊」の意味・わかりやすい解説

盆踊 (ぼんおどり)

盂蘭盆会(うらぼんえ)を中心とした時期に,老若男女によって屋外で踊られる踊り。年に一度死者の霊がこの世に戻り,供養を受けるという盂蘭盆会にともなう民俗行事として発展したが,近年は宗教的意味が薄れ,誰でもが参加できる共同体の娯楽行事として行われる面が強い。

死者供養としての念仏踊踊念仏)は,空也(くうや),一遍(いつぺん)などを祖とする念仏聖によって早くから行われていたが,共同体が自分たちの手で先祖供養のために踊りを行ったのは,中世後期以降と考えられる。その姿は《看聞日記》に念仏拍物(ねんぶつはやしもの)として見え,京都近郊の伏見郷の郷民が風流(ふりゆう)の作り物を念仏で囃し,郷内の村々を互いに往き来して趣向を競いあう姿が記されている。ただし,この念仏拍物はまだ踊りとはいえず,正月の松囃子(まつばやし)や祭礼に行われた風流の拍物(囃し物)を転用し,念仏で囃したところに特色があった。《経覚私要鈔》などによれば,15世紀後半の奈良では,大がかりな風流の作り物を笛,太鼓で囃すことに加えて,それを取り巻くそろいの意匠で飾った踊り手(側踊(がわおどり))の姿が見られる。それは16世紀に入ると,京都を中心に地方の郷村へも伝播(でんぱ)した。京都では貴族の若者や町衆の男たちが踊り手の中心となり,集団共通の統一意匠により,歌や衣装,持物,被り物などをくふうし,組をつくって互いに踊りを掛け合った(掛踊)。具体的ようすは《言継(ときつぐ)卿記》《証如上人日記》などに詳しい。この時期の踊りは盂蘭盆会以外にも踊られ,一般に風流踊の名で呼ばれる。地方によっては念仏踊色の強い芸態を伝えた地も多く,町の辻などに踊堂をつくる所もあった。

 江戸時代に入り自由な気風が薄らぐと,大がかりな風流や新しい趣向がなくなり定型化が進む。伴奏楽器に三味線が加わったことにより,歌も近世流行歌(はやりうた)に変わるが,さらに江戸時代後期には7・7・7・5調の民謡や俗謡,浄瑠璃口説(くどき),祭文(さいもん)などが盆踊歌の主流となり,踊りの手も繰返しの多い単純なものへと変化して風流の趣向も見られなくなる。盆踊歌は近年はレコードの普及により,地域的特色を失った所が多い。

盆踊は現在地域によって7月盆,旧暦盆,8月盆と行う時期はまちまちであるが,8月盆の場合は13日の精霊迎えに始まり,16日の送り火までの間に踊る所が多い。広場の中央に櫓(やぐら)を組んで笛や鉦(かね),太鼓を中心とする囃子方と音頭(おんど)がその上にのり,まわりを踊り手が幾重もの輪を描いて踊るのが一般的であるが,囃子方と踊り手が十数人で〈連(れん)〉と称する組をつくり,街を踊り歩く型式の所もある。前者は基本的に踊りの振りが同一であるが,地方によっては同じ輪でありながら扮装の違いによって振りを変える岡山県笠岡市白石島の白石踊や,踊りの輪によって振りのテンポを違える所もある。〈連〉が街を練り歩くのは徳島の阿波踊や広島県三原市のやっさ踊が代表的で,いずれも振の自由な乱舞型式であり,阿波踊には〈流し〉〈ぞめき〉などの技法がある。また新盆の家や年忌の家を歴訪して踊る型式もあり,特殊な盆踊としては,歌われる口説の登場人物の扮装で,持物を打ち合わせながら踊る〈仕組踊〉や,狂言風の〈盆俄(ぼんにわか)〉などがある。

 現在,民俗芸能として各地に残る盆踊は,それぞれに古い歴史と伝承をもつが,その代表的なものに,秋田県雄勝郡羽後町西馬音内(にしもない)の〈西馬音内盆踊〉(国指定重要無形民俗文化財),岐阜県郡上(ぐじよう)市の旧八幡町の〈郡上踊〉,静岡県榛原(はいばら)郡川根本町の旧中川根町徳山の〈徳山盆踊〉,新潟県魚沼市の旧堀之内町の〈大(だい)の坂踊〉,愛知県新城市大海(おうみ)の〈放下ほうか)〉,同県豊田市の旧足助町の〈綾渡(あやど)の夜念仏と盆踊〉,奈良県吉野郡十津川村の〈十津川盆踊〉,高知県室戸市の〈シットロト踊〉,島根県鹿足(かのあし)郡津和野町の〈津和野盆踊〉,熊本県山鹿市の〈灯籠踊〉,福島県相馬市の〈相馬盆踊〉など,その数はきわめて多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「盆踊」の意味・わかりやすい解説

盆踊り
ぼんおどり

盆に踊る民俗芸能。祖霊、精霊を慰め、死者の世界にふたたび送り返すことを主眼とし、村落共同体の老若男女が盆踊り唄(うた)にのって集団で踊る。手踊、扇踊などあるが、歌は音頭取りがうたい、踊り手がはやす。太鼓、それに三味線、笛が加わることもある。古く日本人は旧暦の正月と7月は他界のものが来臨するときと考えた。正月は「ホトホト」「カセドリ」などいわゆる小(こ)正月の訪問者がこの世を祝福に訪れ、7月は祖霊が訪れるものとした。盆棚で祖霊を歓待したのち、無縁の精霊にもすそ分けの施しをし、子孫やこの世の人とともに楽しく踊ってあの世に帰ってもらうのである。こうした日本固有の精霊観に、仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)が習合してより強固な年中行事に成長した。盆に念仏踊を踊る例もあるが、念仏踊は死者の成仏祈願に主眼があり、一般に盆踊りとは別個の認識にたつ。

 15世紀初頭に伏見(ふしみ)の即成院や所々で踊ったという盆の「念仏躍(ねんぶつおどり)」「念仏拍物(ねんぶつはやしもの)」(『看聞御記(かんもんぎょき)』)は、まだ後の盆踊りというより念仏の風流(ふりゅう)の色彩が濃いものであったが、同世紀末に昼は新薬師寺、夜は不空院の辻(つじ)で踊られたという「盆ノヲドリ」(『春日権神主師淳(かすがごんかんぬししじん)記』)は盆踊りの色彩を強めたものであったろう。盆踊りはそのほか伊勢(いせ)踊なども習合することになったらしいが、にぎやかで華やかな踊りで、異類異形の扮装(ふんそう)をしたとあり、まさに風流(ふりゅう)振りである。16世紀中ごろには小歌(こうた)風の盆踊り唄がつくられていた(『蜷川(にながわ)家御状引付(ごじょうひきつけ)』)。江戸時代以降いよいよ盛んになり、全国的にそれぞれの郷土色を発揮して、いまに行われている。

 今日みる異類異形の盆踊りには、鳥獣類の仮装はなく、秋田県の「西馬音内(にしもない)盆踊」のひこさ頭巾(ずきん)(彦佐頭巾、彦三頭巾とも書く)のように覆面姿が多い。これは亡者の姿といい、また佐渡の「真野(まの)盆踊」のように石の地蔵を背負って踊るものもあり、人と精霊がともに踊ることに意義をみることができる。長野県阿南(あなん)町の「新野(にいの)盆踊」では、最終日に村境まで群行して踊って行き、そこで新盆(にいぼん)の家の切子灯籠(きりこどうろう)を燃やし、鉄砲を撃って踊り神送りをする。精霊鎮送の形がよくわかるが、道を踊り流して歩く形は徳島市の「阿波(あわ)踊」にもよく表れている。新盆の家々を回って踊る例もある。また神社や寺の堂や境内、校庭、公園などで円陣をつくって踊る例も少なくない。岐阜県郡上(ぐじょう)市八幡(はちまん)町の「郡上踊」では、幾重もの踊りの輪ができて夜を徹して踊る。沖縄諸島では「エイサー」とよぶ盆踊りが盛んで、手持ちの太鼓踊と手踊の二様がある。八重山(やえやま)列島では「盆のアンガマ」といって、老人姿の精霊仮装が出る。

[西角井正大]


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百科事典マイペディア 「盆踊」の意味・わかりやすい解説

盆踊【ぼんおどり】

盂蘭盆(うらぼん)の7月15日を中心に,老若男女が大勢参加して,広場や道路でおどる踊り。盆に訪れてくる精霊を迎えて慰め,送る風習(神送り)に発した踊りと考えられている。踊りの形式は念仏踊から出て,小町踊や伊勢踊などの影響を受けたものとされる。全国的に分布するが,形態はさまざまである。
→関連項目阿波踊

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世界大百科事典(旧版)内の盆踊の言及

【盂蘭盆会】より

…檀那寺から僧侶が各戸に出向き,精霊棚に読経するが,これを棚経といい,江戸時代から盛んとなった。また盆の期間に,精霊を供養するために盆踊が行われるが,位牌を背負って踊る土地も今に残っている。檀那寺の住職が踊りはじめることで盆踊が行われているところもある。…

【七夕踊】より

…江戸時代初期から享保期(1716‐36)にかけて,京都で少女が小町踊を七夕に踊るのが流行した。現在残っているもののうち島根県大原郡木次町の七夕踊は〈盆踊〉ともいい,《七夕踊》《山くづし》《関の五本松》の3曲からなる。鹿児島県日置郡市来(いちき)町の〈市来の七夕踊〉は,七夕に行われる風流(ふりゆう)で,鹿,虎,牛,鶴の大張子の作り物,琉球王行列,大名行列,薙刀(なぎなた)踊の行列物と,七夕踊の中心をなす太鼓踊からなる。…

【風流】より

…室町時代後期の風流踊を支えた層と,当時の能・狂言を享受した層とは共通で,風流踊の趣向には能の曲が転用され,その入破(いりは)(キリ)が踊りの中で演じられたことも多い。
[民俗芸能の風流]
 京都の祇園会の山鉾,日立市神峰神社の〈日立の風流物〉に代表される作り物の風流はもとより,風流踊の系譜を引く太鼓踊・羯鼓踊(かつこおどり)・花踊・雨乞踊,囃子物の伝統である鷺舞などの動物仮装風流,胸に羯鼓をつけた一人立ちの獅子舞鹿踊(ししおどり)をはじめ,念仏踊(踊念仏)や盆踊など,全国の民俗芸能には風流の精神を受け継いだ芸能が多い。民俗芸能を分類する場合,それらを一括して〈風流系芸能〉と称するが,その芸態は一様ではない。…

【民俗芸能】より

…長年全国を踏査して多くの研究成果をあげた本田安次(1906‐ )は,これを整理して次のような種目分類を行った。 (1)神楽 (a)巫女(みこ)神楽,(b)出雲流神楽,(c)伊勢流神楽,(d)獅子神楽(山伏神楽番楽(ばんがく),太神楽(だいかぐら)),(2)田楽 (a)予祝の田遊(田植踊),(b)御田植神事(田舞・田楽躍),(3)風流(ふりゆう) (a)念仏踊(踊念仏),(b)盆踊,(c)太鼓踊,(d)羯鼓(かつこ)獅子舞,(e)小歌踊,(f)綾踊,(g)つくりもの風流,(h)仮装風流,(i)練り風流,(4)祝福芸 (a)来訪神,(b)千秋万歳(せんずまんざい),(c)語り物(幸若舞(こうわかまい)・題目立(だいもくたて)),(5)外来脈 (a)伎楽・獅子舞,(b)舞楽,(c)延年,(d)二十五菩薩来迎会,(e)鬼舞・仏舞,(f)散楽(さんがく)(猿楽),(g)能・狂言,(h)人形芝居,(i)歌舞伎(《図録日本の芸能》所収)。 以上,日本の民俗芸能を網羅・通観しての適切な分類だが,ここではこれを基本に踏まえながら,多少の整理を加えつつ歴史的な解説を行ってみる。…

※「盆踊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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