羽二重(読み)はぶたえ

精選版 日本国語大辞典 「羽二重」の意味・読み・例文・類語

は‐ぶたえ ‥ぶたへ【羽二重】

〘名〙
絹布一種。優良な絹糸で緻密に織り、精練した純白のもの。薄手でなめらかで艷がある。多く、礼服地、羽織裏、胴裏などに用いられ用途は広い。はぶたい。
※俳諧・毛吹草(1638)四「山城〈略〉新在家 羽二重(ハブタヘ)
② 特に、黒羽二重の羽織。遊客の間で、通人の服装とされた。はぶたい。
※俳諧・望一千句(1649)三「何疋とあらず鹿子のあつまりて 色々にしもそむるはぶたへ」
※俗謡・伊名勢節(1856)「丸顔、中背中肉、太りが好きなら、ハッハ、羽二重(ハブタヘ)嬉しいやわらかな」

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デジタル大辞泉 「羽二重」の意味・読み・例文・類語

は‐ぶたえ〔‐ぶたへ〕【羽二重】

縦糸・横糸に良質のりのない生糸を用いて、多く平織りとしたあと練りの絹織物肌触りがよく、つやがある。礼服や羽織・羽織裏・胴裏地などに用いる。

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改訂新版 世界大百科事典 「羽二重」の意味・わかりやすい解説

羽二重 (はぶたえ)

ちりめんと並ぶ絹織物の代表的な一品種。経緯とも無撚の生糸を使った生織物で,おもに後練にする。起源には羽振妙(はぶりたえ)(妙は古代の白衣の意)からという説,一つの筬羽(おさは)に経糸を二重に通して織るため羽二重といったという説などがある。寛永年間(1624-44)からすでに羽二重の名称は使われ,寛文(1661-73)ころの京都,堺産のものは良品とされた。経糸には良質の生糸を密に用い,緯糸は水に湿してよく打ち込んで織る。平羽二重,綾羽二重,紋羽二重,絹紡羽二重,緯に太畝(ふとうね)を現した塩瀬羽二重などがある。国内用には和装用途が多く小幅物がほとんどで,軽目,中目,重目ものがある。輸出などの洋装向けは広幅の軽目ものが多い。一般に絹織物の後練白生地は,重さを目附(めづけ),匁附(めづき)で表示する。匁附は精練後の重量の表し方で,幅が鯨尺1寸(3.78cm),長さ6丈(22.727m)のものの重さを匁で表し,たとえば8匁附羽二重,16匁附羽二重と呼ぶ。練上りの羽二重の薄地のものは,手触りが柔らかく,弾力と暖かみのある風合いで光沢に富み,絹鳴りがする。重目ものは緻密で格調高い光沢と張りをもつ。白地,無地,柄染などにして用い,おもに羽尺,着尺,コート,帯地,裏地,下着,婦人服スカーフブラウスネクタイなどにする。福井,石川,新潟福島県などで生産される。最近では絹素材のほかに,レーヨン,ポリエステル,キュプラなどの長繊維製のものもある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「羽二重」の意味・わかりやすい解説

羽二重
はぶたえ

平絹(へいけん)ともいい、経緯(たてよこ)糸に無撚(よ)りの生糸などを使用した主として平組織の後練り織物。羽二重とは製織するとき筬(おさ)の一羽に経糸2本を通すことをいったもので、1本だけ通した「素(す)入り」よりも、経方向に筬目(おさめ)ができるので、この特徴から名称がつけられたのであろう。もとは小幅のものばかりであったが、明治以後は輸出が盛んとなり、内地向けと輸出向けに分け、広狭に分類するようになったが、品質的にも差異を生じている。小幅のものは、幅36センチメートルで、とくに生地(きじ)は厚地で、製織に際しては緯糸を湿して打ち込み、地合いを引き締めるのが特徴である。後練り織物であるから、製織したのち精練漂白して仕上げる。広幅は、幅91.4センチメートル、長さ40メートルを一反としたもので、比較的薄地のものである。

 種類としては、平組織のものが多いが、糸使い、組織の変化により、片羽二重、諸(もろ)羽二重、綾(あや)羽二重、紋(もん)羽二重などがあり、最近では合繊のものも製織されている。第二次世界大戦前は輸出の重要商品であったが、生活内容の変化により需要は減退した。後練りのため乾燥地帯では製織しにくいので、北陸地方が主要生産地である。

[角山幸洋]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「羽二重」の意味・わかりやすい解説

羽二重
はぶたえ

日本の代表的な高級絹織物の一種。生糸を用いて平織または綾織にしたのち,精練と漂白をして白生地とし,用途によって無地染や捺染模様染にする。一つの筬羽 (おさば) に経糸を2本 (2重に) 通すので,この名があるといわれる。平羽二重,綾羽二重,縞羽二重,紋羽二重,塩瀬羽二重などの種類があり,平羽二重のなかに,きわめて薄地の軽目羽二重がある。また最近は,レーヨン,ナイロンなど化学繊維の羽二重もできている。昔は平絹とか光絹などといったが,寛永年間 (1624~44) には,羽二重の名称が用いられた。北陸地方に多く産出され,着尺地,帯地などのほか,広幅物は洋装地として使用される。

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百科事典マイペディア 「羽二重」の意味・わかりやすい解説

羽二重【はぶたえ】

絹織物の一種。生糸を用いて織り,のち精練する。平滑で光沢があり,古くは平絹(へいけん)または光絹(こうけん)とも称した。平織が多いが,綾羽二重,紋羽二重,壁羽二重などもあり,化繊,合繊も用いられる。和装式服,裏地,下着,帯などにする。主産地は,福井,石川,福島,新潟県など。
→関連項目絹織物平織

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世界大百科事典(旧版)内の羽二重の言及

【イタリア戦争】より

…15世紀末から16世紀半ばにかけて,政治的統一を欠くイタリアの支配権をめぐり,フランス王家とハプスブルク家との対立を軸として展開された大規模な国際紛争。発端は,ナポリ王国の継承権を主張するフランス国王シャルル8世のイタリア侵入(1494)である。…

【ウィーン】より

…しかしバーベンベルク家の滅亡(1246)とともに市は帝国都市としての立場を失った。
[ハプスブルク家の支配]
 ボヘミア国王オタカル2世の支配を経て,78年ハプスブルク家のルドルフ1世が新たな勝利者としてウィーンへ入った。ここに,以後6世紀半にわたるハプスブルク支配の礎石がおかれる。…

【ウィーン美術史美術館】より

…マリア・テレジア広場に面して建つネオ・ルネサンス様式の建物で,ゼンパー,ハーゼナウアKarl Hasenauer(1833‐94)が設計し,1872‐81年に建設。コレクションは皇帝ルドルフ2世やレオポルド・ウィルヘルム大公など,歴代のハプスブルク家の熱心な美術愛好家によって収集された。50に近い展示室のうち,《農民の結婚式》などのある〈ブリューゲルの間〉はもっとも有名。…

【オーストリア】より

…880年にはマジャール人が侵入するが,955年オットー1世がレヒフェルトの戦でマジャール人を打ち破るのである。
[ハプスブルク王制の確立]
 次にくる約1000年の時期,オーストリアを支配するのはバーベンベルクBabemberg家とハプスブルク家の二つの王朝である。バーベンベルク家は270年間,ハプスブルク家は640年間オーストリアを統治するのである。…

【オランダ】より

…10世紀以降とめどなく進行する封建化のうちから地方伯や豪族はしだいに自立化し,13世紀ごろにはホラント伯領(ゼーラントも支配),ヘルレGelre(ヘルデルラント)公領,ブラバント公領,ユトレヒト司教領が形成された。
[ブルゴーニュ家,ハプスブルク家の支配]
 15世紀前半,フランス王室の分家であるブルゴーニュ家のフィリップ(善良公)はホラント,ゼーラント,ブラバントなどを手に入れ,その子シャルル(突進公)もさらに北方に勢力を伸ばそうとしたが戦死し,ブルゴーニュ公領ネーデルラントはシャルルの女相続人マリアと結婚したオーストリアのハプスブルク大公マクシミリアン1世の領有に帰した。マクシミリアン1世の孫カール5世(1500‐58)はハプスブルク家領のオーストリアとあわせてネーデルラントを継承し,母方の縁でスペイン国王を兼ね,さらにネーデルラント諸州の支配権を次々に手に入れてネーデルラント全領域を支配した。…

【唇】より

…黒人の唇が厚くめくれているのは,皮膚の黒さが唇の視覚信号としての価値を低めるので,大きく突出することによって色のコントラストで失ったものを形と大きさでとりもどしていると彼は説明する。 ハプスブルク家には遺伝的に唇の異常があり,〈Austrian lip〉といわれた。すなわち,カール5世は下顎が上顎をはるかに越えて突出していたため,老いて残った歯がかみ合わず,聞きとりやすい声でしゃべれなかった。…

【チェコ】より

…12世紀末に出たプシェミスル・オタカル1世Přemysl Otakar I(在位1198‐1230)は初めて世襲の王号を獲得し(1198),1212年にはボヘミア王国の独立が正式に承認された。のちにボヘミア王国は実質的にオーストリア・ハプスブルク家の支配下に入るが,王国としての形態は1918年まで保った。また隣接するモラビアは1182年にボヘミアより独立して帝国の辺境伯領となったが,実質的にはボヘミア王の支配する属領となり,チェコを構成する重要な地域となった。…

※「羽二重」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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