江戸時代の儒学の一派。経書を中心とする儒学の研究において、事実関係の証拠を考究することを基礎にする。さらには歴史・学芸などの事実そのものの立証に及ぶ。広義には、折衷学派のうちに考証学的傾向を認めて、一括して折衷考証学派というが、狭義には、とくに吉田篁墩(こうとん)、太田錦城(きんじょう)、狩谷棭斎(かりやえきさい)、松崎慊堂(こうどう)らの学風、学統をいう。
考証学派成立の過程には、国内的条件と国際的条件とがある。国内的条件は、江戸初期からの日本近世儒学の発展である。もともと朱子学にも経書解釈上で事実認識を導入する萌芽(ほうが)があり、林羅山(らざん)、貝原益軒(えきけん)、新井白石(あらいはくせき)らは博学・実証の傾向が強い。朱子学の克服を意図して現れた伊藤仁斎(じんさい)・東涯(とうがい)、荻生徂徠(おぎゅうそらい)らの古学派は、聖人の教えを明らかにするためには、後世の主観的解釈を排除して古義・古文辞(こぶんじ)を客観的に認識しなければならないとする。古学派に続いて登場する細井平洲(へいしゅう)、片山兼山(けんざん)、井上金峨(きんが)らの折衷学は、各種の注釈を折衷して経書解釈を行おうとし、取捨選択の基準を事実認識の当否に置く。考証学派は、折衷学派の学統のなかから誕生したものである。一方、国際的条件は清朝(しんちょう)考証学の発展である。中国では、漢唐の訓詁(くんこ)学、宋明(そうみん)の性理学に対して、清朝の考証学がおこり、顧炎武(こえんぶ)、朱彝尊(しゅいそん)、閻若璩(えんじゃくきょ)らの著書が江戸中期以降、数多く日本に輸入され、大きな影響を与えた。
[三宅正彦]
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
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