日本大百科全書(ニッポニカ) 「耐火物」の意味・わかりやすい解説
耐火物
たいかぶつ
refractories
refractory material
窯炉の内張りその他過酷な加熱にさらされる場所に用いたときに、相当の高温に耐えることのできる材料をいう。JIS(ジス)(日本産業規格)の「耐火物用語」(JIS R2001)では「1500℃以上の定形耐火物及び最高使用温度が800℃以上の不定形耐火物、耐火モルタル並びに耐火断熱れんが」と規定している。
工業の進歩に伴い、耐火物は単に耐火度ばかりではなく、高温における耐荷重能力、熱衝撃抵抗性、熱伝達性のほか、酸化および還元雰囲気、酸性および塩基性鉱滓(こうさい)、鉱滓粘着、鉱滓浸透、機械的摩耗に対する抵抗性、高温における電気抵抗性などが要求されている。
[素木洋一]
分類
耐火物は、〔1〕化学的鉱物学的、〔2〕耐火度、〔3〕製造様式、で分類できる。化学的鉱物学的には酸性、塩基性、中性の3群に分けるのが一般的である。製造様式からは、(1)成形れんがとブロック(電鋳耐火物、焼成耐火物、不焼成耐火物)、(2)不定形素地(スタンプ材、吹付けと塗抹材、鋳込み素地、モルタル類)、(3)天然石、に分類される。
[素木洋一]
耐火物の特性と用途
耐火物には重量物または粗粒からなる製品と、特殊作業に用いる微細粒子からなる製品とが入るが、一般には前者を耐火物に、後者をファイン・セラミックスに入れる。それぞれの鉱物を主成分としてつくられた耐火物の特性と主用途は次のようである。
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珪石耐火物
1710℃の温度以内で1平方センチメートル当り3.5キログラムの荷重に耐えることができ、構造物としては1650℃まで安全に使用できる。その熔融(ようゆう)温度に至るまでは収縮を示さず、600~1700℃の範囲では熱衝撃抵抗性が大きい。製鋼炉の主体になる融剤および酸性鉱滓の侵食に対する抵抗性が大きく、摩耗に対する抵抗性も大きい。塩基性鉱滓およびフッ素には容易に侵食される。高温における熱伝導度が大きい。唯一の重大な欠点は600℃以下、十分に焼成されたものでは300℃以下の熱衝撃に敏感なことである。このような性質があるため、〔1〕製鋼用酸性平炉の壁、天井、炉底など、〔2〕コークス炉炉体、ガス発生炉など、〔3〕ガラス槽窯用と煙道、トンネル窯の台車用ブロック、などに利用される。
[素木洋一]
アルミノ珪酸塩耐火物
一般にシャモットれんがという。特性は、使用する粘土およびシャモットあるいはシャモットを置換する耐火原料の種類や性質に大きく左右される。日本ではその特性によって9種類に区分する。用途は非常に広く、高炉れんが、熱風炉れんが、コークス炉れんが、製鋼用必需材料、ガラスおよびほうろう工業用、交通工業用、金属熔解炉、徐冷窯、ガス発生炉、セメント焼成窯、陶磁器焼成窯、化学工業用炉、ガラス槽窯などに用いられている。
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ムライト
1830℃までの高温に耐え、熔融鉱滓およびガラスに対する抵抗性が大きく、熱衝撃抵抗性に優れている。ガラス槽窯、バーナー・ブロック、フリット窯、セラミック焼成窯のセッター・タイル、電弧炉天井、その他用途は広い。
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アルミナまたはコランダム
1900℃までは酸化と還元、鉱滓および機械的摩耗に対する抵抗性がきわめて大きく、高耐火性、荷重軟化抵抗性と熱伝達性が大きい。塩基性鉱滓に対する抵抗性があり、高温で電気抵抗が大きい。スポーリング、鉱滓の粘着および浸透に対する抵抗性は小さい。セラミックスおよびほうろう用の窯のマッフル、バーナー・ブロック、高温ガスまたは重油窯などに用いる。
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安定化ジルコニア
酸性状態で2400℃まで使用できる酸性耐火物。高温での蒸発は小さい。熱衝撃抵抗性は良好。50~90%アルミナ、クロム、クロム‐マグネシア、フォルステライト、マグネシアおよびシリカと接触していても1600℃までは安全。高アルミナ耐火物に対しては1550℃まで、ジルコン耐火物とは1900℃まで安全である。真空中、水素および窒素雰囲気中では約2200℃で分解する。高温度では電気抵抗は低い。酸化物の生成が避けられるならば酸性鉱滓の混じった金属の熔融に用いられる。継目なし炉体構築用、2000℃までのガス焼成窯用耐火物、バーナー・ブロック、ノズル、ガラス供給用ブロック、高温断熱材、1900℃で白金を熔融する高周波誘導炉、2315℃までの窒素固定装置などに使用される。
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ジルコン
結晶の変態はなく、均一な熱膨張を示す。強酸化状態でない限り熔融金属に対する抵抗性は良好。ホウケイ(硼珪)酸ガラス、メタリン酸塩、塩化ソーダ、塩化ソーダ‐塩化亜鉛融剤、焦性リン酸カリ、五酸化リンに対して抵抗性をもつ。炭酸ソーダとフッ化ソーダ、蛍石、氷晶石、熔融硫酸バリウム、および焦性リン酸四ソーダに侵食される。熱衝撃抵抗性は良好。アルミニウム再熔融用炉、リン酸石灰肥料用炉、ガラス槽窯などに用いる。
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炭素
高耐火性で容積安定性が良好、広範囲にわたって化学薬品に対して抵抗性があり、高温でも強度が大きく、熔融鉱滓または鉄に濡(ぬ)れず、熱伝導度は比較的高い。空気中では350℃以上で酸化し、水とは590℃以上、炭酸ガスとは700℃以上で反応する。熔鉱炉からのアルカリ性残渣(ざんさ)は815℃で炭素れんがを侵食し始める。炭素はブロックでは高炉炉床および朝顔に、れんがは熔鉱炉のスタックに使用される。槽につくったものは湯道に、また合金鉄炉に用いられる。そのほか、炭素管炉内で炭化タングステン焼結用のボートなどの用途がある。
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炭化ケイ素
室温および高温における耐荷重性に著しく優れ、耐スポーリング性が大きく、熱伝達性がよく、還元、酸性鉱滓、鉱滓の粘着および浸透、機械的摩耗に対して抵抗性がある。耐火度が高く、800~1200℃の温度範囲以外では酸化しにくい。高温における電気抵抗は非常に小さい。そのうえ価格も適当であるため、各種窯炉材料のほかスラリー・ノズル、スプレー・ノズル、保護管、ワイヤー・ガイドなど多くの用途がある。
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マグネシア耐火物
耐侵食性で、ときに非常に緻密(ちみつ)な組織の代表的な塩基性耐火物で、耐火度がきわめて高く、また熱伝導度が大きい。塩基性鉱滓に対しては抵抗性が非常に大きいが、シリカ含有量の多い鉱滓に対しては抵抗性は小さい。標準れんがはスポーリング抵抗性は悪いが、特殊な型で化学結合あるいはメタルケースにしたものは良好である。塩基性アーク炉と平炉の炉床および天井、製鋼炉の後壁、前壁、突当り壁に用いる。銅、錫(すず)、鉛、アンチモンの熔融炉および精澄炉の内張り、セメント回転炉、ガラス熔融窯、均熱炉の下部側壁に使用する。
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ドロマイト耐火物
マグネシアよりも安価で、低気孔率、高耐圧強度、荷重軟化温度が高く、軟化温度範囲および容積安定範囲は広いが、熱衝撃抵抗性は非常に劣る塩基性耐火物である。平炉などに用いる。
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クロム‐マグネシアおよびマグネシア‐クロム耐火物
高温における機械的強度と安定性が大きく、耐スポーリング抵抗性に卓越、塩基性鉱滓による侵食には大きな抵抗性をもつ。高温におけるねじりおよび引張りに対する抵抗性はマグネシアよりも強い。酸化鉄と接触するとバースティングの傾向をもつ。非鉄金属冶金(やきん)炉、転炉および反射熔融炉、全塩基性平炉などに使用される。
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クロム耐火物
塩基性および中程度の酸性鉱滓および融剤に対する耐侵食抵抗性が大きい。一般的にみて塩基性鉱滓はクロムれんがに粘着しない。荷重軟化温度は比較的低く、熱衝撃抵抗性は小さい。塩基性平炉やマグネシアれんがと珪石れんがの中間積(づみ)に用い、製紙工業におけるソーダ塩回収炉に使用する。
[素木洋一]
『素木洋一著『築炉用セラミック材料』(1973・技報堂出版)』▽『日本規格協会編・刊『JISハンドブック 耐火物2013』(2013)』