聊斎志異(読み)リョウサイシイ

デジタル大辞泉 「聊斎志異」の意味・読み・例文・類語

りょうさいしい〔レウサイシイ〕【聊斎志異】

中国、清代の怪異小説集。16巻、445編。蒲松齢ほしょうれい著。1679年ごろ成立。1766年刊。聊斎は作者の書斎名。神仙・狐鬼・妖怪などと人間との情感豊かな交錯が簡潔な文語体で書かれ、怪奇文学の傑作とされる。

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精選版 日本国語大辞典 「聊斎志異」の意味・読み・例文・類語

りょうさいしいレウサイシイ【聊斎志異】

  1. 中国の伝奇小説。現行本一六巻四四五編。清の蒲松齢(ほしょうれい)撰。一六七九年ごろ完成。一七六六年刊。短編を集めたもので怪奇的な物語と奇聞録に大別される。花や動物の化身・幽霊などと人間との情感豊かな交流をユーモアと痛烈な風刺のきいた華麗な筆致で展開。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「聊斎志異」の意味・わかりやすい解説

聊斎志異
りょうさいしい

中国、清(しん)初の文人蒲松齢(ほしょうれい)の文語体の怪異小説集。作者の生存中から評判をよび、写本によって読み継がれていたが、死後51年を経た1766年に最初の刊本青柯亭(せいかてい)本が刊行された。445編を収めたこの版本の系統の16巻本が諸版本のなかでもっとも流布したが、現在では500編以上を収めた会校会注会評本が最良の版本である。この怪異譚(たん)の執筆期間は長年月にわたり、自序の書かれた1679年以後の作品もあるが、主要な編はこの年までに成立していたのかもしれない。

 全編ことごとく神仙、狐(きつね)、鬼(コエイ)(幽霊)、化け物、不思議な人間や事柄などに関係した話で、その多くは民間の話に取材している。なかでも現世(このよ)と冥界(あのよ)との交渉の物語と狐の物語が他のものに比べてはるかに多い。しかも妖怪(ようかい)と人間との交情を中心に展開される情話が多い。狐女と幽霊の女が1人の青年をめぐって寵(ちょう)を争い、最後に3人とも二世にわたる縁を結ぶ「蓮香(れんこう)」、いかなるときにも笑いを失わずに人間に慰めを与える賢い狐女の物語「嬰甯(えいねい)」、牡丹(ぼたん)と忍冬(にんどう)の美しい花の精に無限の愛情を寄せる男の物語「香玉」などは、その屈指の代表的作品である。これらの主要編は唐代の伝奇や明(みん)の『剪燈新話(せんとうしんわ)』の系統に属するが、民間の話などをそのままに採録しないで、特異な物語を描き出そうとする明確な創作意識をもって執筆されている。その結果、巧妙な構成をもち、典拠のある用語を効果的に駆使した独自の簡潔な表現による精細な描写が行われ、叙次も整然としている。そこには怪異の世界と人間の世界との交錯が美しく展開され、エロティシズムの魅力も加わって、現実を写した小説からは味わえない人間の真と美とを感じさせ、中国怪異文学のなかで最高の傑作となっている。伝奇系の作品のほかに、清初の志怪小説に似た簡単な異聞の記録も多いが、作者の文才によって、やはり他書のものにみられない味わいをもっている。

 中国では「説聊斎(シユオリヤオチヤイ)」(聊斎を語る)ということばが怪異譚を話す意味を表し、怪異小説の代表としての地位を占めている。日本には青柯亭本の出た翌々年にはすでに舶載されている。いくつかの翻案があるが、日本に与えた影響は明治以降に注目すべきものがあり、そのロマン性と優れた描写とが多くの近代・現代の文学者や文芸界に、江戸期における『剪燈新話』を凌駕(りょうが)する大影響を与えた。3種の全訳本もあり、多くの読者を獲得している。

[藤田祐賢]

『増田渉・松枝茂夫他訳『中国古典文学大系40・41 聊斎志異』(1970、71・平凡社)』『柴田天馬訳『聊斎志異』全四冊(角川文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「聊斎志異」の意味・わかりやすい解説

聊斎志異 (りょうさいしい)
Liáo zhāi zhì yì

清代初期の文人蒲松齢(ほしようれい)が執筆した文語体の怪異小説集。流布本(青柯亭(せいかてい)本系統)では,16巻で445編を収めているが,ほかに12巻本,18巻本,24巻本や原稿の約半分の量の手稿本がある。所収編はすべて神仙,狐,鬼,化物,ふしぎな人間などに関係した物語や異聞の記録的短編で,そのほとんどが民間の話に取材され,著者の明確な創作意識の下に執筆された。とくに,本書の本領である唐の伝奇小説系の物語は,空想力のあふれた手法で書かれ,同類の書にはみられない巧みな構成と,著者独特の簡潔な表現による精細な小説的描写とをもち,序次も整然としていて,怪異の世界と人間界との交錯したロマンの世界をみごとに構築している。そこには,現実をうつしたなまなかな小説からは味わえない人間的な真と美が表出されている。著者は生来怪異譚を愛好したロマンティックな性向をもち,序文ではみずからこの書を〈孤憤の書〉と呼び,編中の狐や鬼たちは現実の人間以上の愛すべき人間性をもったものとして形象化され,また科挙に及第しなかった不遇な著者の試験官に対する憤りが風刺や呵責(かしやく)となって編中に吐露された。その主要な編は,序文を書いた著者40歳の年(1679)までに完成されたらしいが,その後も老年まで書き続けられた。清朝随一の当時の詩人王士禎(漁洋)の称賛と批評文を得て一躍有名になったが,青柯亭本の出版(乾隆年間)によって流行し,現在では古今怪異文学の代表とされている。日本では江戸期にわずかな翻案などがあるにすぎないが,明治以降に流行し,その浪漫性とすぐれた描写が近代および現代の文学者(尾崎紅葉,国木田独歩,蒲原有明,芥川竜之介,佐藤春夫,太宰治,安岡章太郎,栗田勇など)に影響を与え,3種の全訳が出て広い読者層を獲得している。演劇,絵画の分野への影響も見逃せない。英,独,仏,伊,露の各国語の抄訳もある。
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百科事典マイペディア 「聊斎志異」の意味・わかりやすい解説

聊斎志異【りょうさいしい】

中国,清の文語体怪異小説集。蒲松齢(ほしょうれい)〔1640-1715〕作。聊斎は松齢の斎号。16巻。445編。神仙,狐,鬼,化物,ふしぎな人間などに関する物語や見聞を集めた。特に妖怪と人間との交情を中心に展開される情話が傑作。《水滸伝(すいこでん)》《三国演義》と並んで広く読まれ,日本では明治以後に流行。1955年蒲氏手稿本が北京で影印刊行された。
→関連項目閲微草堂筆記

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「聊斎志異」の意味・わかりやすい解説

聊斎志異
りょうさいしい
Liao-zhai zhi-yi

中国,清の文語怪異小説集。蒲松齢の著。約 500話。康煕 18 (1679) 年頃成立。著者の死後の乾隆 31 (1766) 年刊。聊斎は著者の書斎名。神仙,狐鬼に関する物語,見聞を記した小説集で,とりわけ動植物の精と人間との交わりに関するものが多い。博識と多才をもちながら,ついに科挙に合格できなかった著者の満たされぬ心が,夢幻の世界のうちに花開き,また社会の矛盾を鋭く浮彫りにしたもので,その簡潔な文章も定評がある。本書は人々によって争って転写され,刊行されてのちも大流行した。日本にも早く伝わって広く読まれ,明治以降特に流行し,多くの翻訳,翻案が試みられている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「聊斎志異」の解説

『聊斎志異』(りょうさいしい)

清代の文語文短編小説集。蒲松齢(ほしょうれい)(1640~1715)の作。16巻431編。狐や精霊の登場する妖怪談が多いが,人間味豊かな話で,風刺や諧謔(かいぎゃく)の面白味もあり,文学として優れ,広く愛読された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「聊斎志異」の解説

聊斎志異
りょうさいしい

清代の文語短編小説集
16巻からなり,著者は蒲松齢 (ほしようれい) (1640〜1715)。人間味あふれる妖怪と人間との交流を夢幻のうちに展開させた奇聞・伝奇小説のほか,世情の風刺をも含めた芸術性の高い短編集。

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