剪燈新話(読み)せんとうしんわ

精選版 日本国語大辞典 「剪燈新話」の意味・読み・例文・類語

せんとうしんわ【剪燈新話】

中国伝奇小説。四巻。各巻五編、付録一編。明(みん)瞿佑(くゆう)撰。洪武一一年(一三七八)ごろ成立。華麗な文語体で書かれ、唐代伝奇小説の流れをくむ夢幻的物語が多い。後代の通俗小説戯曲、また日本江戸文学に与えた影響は大きく、浅井了意の「御伽婢子(おとぎぼうこ)」、三遊亭円朝の「怪談牡丹燈籠」はその一部を翻案したもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「剪燈新話」の意味・わかりやすい解説

剪燈新話
せんとうしんわ

中国、明(みん)初の文語体の怪異小説集。瞿佑(くゆう)作。四巻20編と付録一編からなる。もとは『剪燈録』といって全40巻もあったが、作者が筆禍により流謫(るたく)されていた間に散逸してしまい、のちにある地方官吏がその残編を入手して、流謫地に行って作者の校閲を受けた。作者がそれらに一編を付録したのが、現在みられるものである。自序によると、『剪燈録』は古今の怪異を編集して、勧善懲悪のほか、不遇な者への同情を込め、同時に自分の失意を慰めるための余技であったことが知られる。

 21編の物語はそれぞれに特色のある怪異譚(たん)で、唐の伝奇小説の系統を引き、怪異と艶情(えんじょう)の交錯する世界を妖麗(ようれい)な筆致で展開している。編中には詩が多く使用され、また詩をつくる話や詩人にかかわる話が多く、文体にも四六駢儷(しろくべんれい)体の美文が使われているのは、作者が詩人であったことと大きな関係があり、小説に典雅な趣(おもむき)を添えている。出版後は非常な流行をみせ、同類の作品が数多く出現し、色情的な作品として当局に禁止されて消失したが、のちに清(しん)代の末に日本から逆輸入された。日本には室町時代の末に渡来したらしく、中村某(なにがし)の『奇異雑談集(きいぞうだんしゅう)』に「牡丹燈記(ぼたんとうき)」ほか二編の翻訳が収められ、慶長(けいちょう)年間(1596~1615)には版本が刊行され、以後江戸時代の怪異小説の分野に大影響を与えた。なかでも「牡丹燈記」はいくつかの改作を経て、三遊亭円朝(えんちょう)の名作『牡丹灯籠(ぼたんどうろう)』を生んでいる。

[藤田祐賢]

『飯塚朗訳『中国古典文学大系39 剪燈新話』(1969・平凡社)』『山口剛著『近世小説』(1931・創元社/『山口剛著作集2』所収・1972・中央公論社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「剪燈新話」の意味・わかりやすい解説

剪燈新話
せんとうしんわ
Jian-deng xin-hua

中国,明の文語怪異小説集。瞿佑 (くゆう) の著。4巻。各巻5編,付録1編の計 21編。洪武 14 (1381) 年頃成立。いわゆる伝奇小説の正統を継ぐが,怪異を扱いながらも代表作『牡丹燈記』のような夢幻的作品が多い。刊行されるや大いに流行し,『剪燈余話』など続作,模倣作を生み,また明末の通俗文学にも多くの素材を提供した。日本でも浅井了意の『御伽婢子 (おとぎぼうこ) 』,上田秋成の『雨月物語』など,江戸時代の小説に大きな影響を及ぼし,特に『牡丹燈記』はいくつかの改作を経て三遊亭円朝の名作『怪談牡丹燈籠』となった。のち発禁処分にあうなどで中国では次第にテキストが乱れ,清末には『剪燈余話』とともに慶長年間の日本の刊本が逆輸入されている。

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旺文社世界史事典 三訂版 「剪燈新話」の解説

剪燈新話
せんとうしんわ

明の瞿佑 (くゆう) (1341〜1427)の短編小説集
4巻。恋愛や神仙譚 (しんせんたん) ・怪異談など,六朝 (りくちよう) ・唐以来の伝奇の体を借り,文章は清麗である。日本に伝わって流行し,江戸初期の浅井了意の『御伽草子 (おとぎぞうし) 』には18編が翻案されている。

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