肝がん(読み)かんがん(かんさいぼうがん)(その他表記)Hepatic cancer (Hepatocellular carcinoma)

EBM 正しい治療がわかる本 「肝がん」の解説

肝がん(肝細胞がん)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 肝臓から発生する肝がんのほとんどは、肝細胞(かんさいぼう)に由来する肝細胞がんです。ほかに胆管(たんかん)の上皮細胞(じょうひさいぼう)からできる胆管細胞がんがあります。また、ほかの臓器にできたがんが肝臓に転移したものを転移性肝がんといい、頻度的(ひんどてき)には肝細胞がんや胆管細胞がんより多くみられます。
 肝がんに特有の症状はありませんが、病気の初期には上腹部の痛み・不快感、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、食欲不振、倦怠感(けんたいかん)などの症状がみられます。原因不明の発熱がおこることもあります。進行すると黄疸(おうだん)(顔や体が黄色くなること)がでたり、腹水(ふくすい)がたまったりします。ほかの臓器に転移してはじめて症状が現れることもあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 肝細胞がんは主としてB型肝炎あるいはC型肝炎ウイルスに伴う慢性肝炎、肝硬変などの持続性壊死(じぞくせいえし)・炎症および線維化(せんいか)をベースに発がんをきたす肝細胞由来の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)です。わが国ではC型肝炎に基づく肝細胞がんが多いため、その80~90パーセントに肝硬変(かんこうへん)を併存しています。しかしながら、B型肝炎およびC型肝炎ウイルス感染者から高率に発がんするということは、逆に肝細胞がんのハイリスク群の設定が可能ということであり、結果としてがんの早期発見が可能であるというのも特徴のひとつです。
 肝細胞がんの原因としてはB型肝炎ウイルス(15パーセント程度)、およびC型肝炎ウイルス(75~80パーセント程度)の長期にわたる感染の継続と、肝臓の組織の壊死・炎症がもととなって発症する患者さんが大半を占めます。そのほかの5~10パーセント程度のいわゆる非B型・非C型肝がんのなかには、各種の肝炎ウイルス感染が原因ではない肝硬変(原発性胆汁性肝硬変(げんぱつせいたんじゅうせいかんこうへん)、自己免疫性肝炎(じこめんえきせいかんえん)、アルコール性肝硬変Budd-Chiari症候群など)が含まれます。さらに最近では、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH=non-alcoholic steatohepatitis)から肝硬変へと進展した場合の、発がん率の高さが注目されています。
 そのほか、欧米では肥満糖尿病がある人は肝がんの発がん率が高いことが報告されています。日本でも近年、そのような肥満、糖尿病、高脂血症を合併するNASH、burnedoutNASH(炎症が進んで肝硬変に至った状態)からの発がんが注目されています。

●病気の特徴
 肝がんで亡くなる日本人の数は年間に約3万人です。7対3の割合で男性に多く、40~70歳代に多くみられます。発症のピークは50歳代です。がんの部位別にみた人口10万人あたりの年齢調整死亡率は、男性では肺、胃、大腸に次いで肝がんは第4位、女性では大腸、肺、結腸、以下ほかのがんに次ぐ第7位の高さでした(2014年厚生労働省人口動態統計)。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック



[治療とケア]ウイルス性慢性肝炎・肝硬変の患者さんは定期的な検査を受け、肝がんの早期発見に努める
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 現在わが国ではB型肝硬変・C型肝硬変の患者さんに対しては、肝がんの超危険群として3~4カ月ごとの超音波検査、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-Ⅱ、AFPレクチン分画(AFP-L3))の測定、6~12カ月ごとのCT/MRI(option)検査を勧めています。

[治療とケア]肝切除術を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 肝臓をいくつかの区域に分けて、系統的に切除します。ベースにある肝障害の程度と腫瘍の大きさによって、生存率に差があることが信頼性の高い臨床研究で報告されています。一般に、肝障害が軽度で腫瘍の大きさが5センチメートル未満、単発、脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)なし、血清Albが40グラム/リットル未満、pTNMステージⅠ、Ⅱの場合は、長期的に良好な経過が期待できると思われます。(1)~(4)

[治療とケア]肝動脈化学塞栓術(かんどうみゃくかがくそくせんじゅつ)(TACE)/肝動脈塞栓術(TAE)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 薬を注入して肝動脈を塞(ふさ)ぐことで、がん細胞への血流の供給を断ち、がんを死滅させる方法です。一般に、外科的切除が不能で、ほかの内科的な治療も適応外となる患者さんに対して行われます。腫瘍を縮小させる効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。また、1~2年の生存率の向上が報告されている論文もあります。(5)~(8)

[治療とケア]ラジオ波焼灼術(RFA)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] ラジオ波でがんを加熱して、死滅させる方法です。腫瘍径が3センチメートル以下の肝細胞がんを対象にした場合、ラジオ波焼灼術のほうが経皮的エタノール注入療法より、がんが完全に壊死(えし)しやすい傾向があります。(9)

[治療とケア]経皮的エタノール注入療法(PEIT)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 超音波検査でがんの正確な位置を確認し、そこに注射で濃度100パーセントのエタノール(純アルコール)を注入して、がんを死滅させる方法です。大きさが5センチメートル以下の腫瘍であれば、70パーセントは完全に死滅できることが信頼性の高い臨床研究によって認められています。しかし、肝細胞がんでは局所再発する確率が高いため、適応を見きわめなければなりません。(10)(11)

[治療とケア]肝移植を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 肝臓の状態やがんの大きさ、数などによっては肝移植が可能な場合があります。しかし、移植後の再発やドナー(移植のための臓器提供者)の問題があり、治療を行えるのは限られた専門施設のみになります。(12)~(14)

[治療とケア]化学療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 手術療法や肝動脈化学塞栓術などの局所療法による治療が難しい患者さんの場合、分子標的薬や抗がん薬などを用いた化学療法が行われます。(15)(16)
 ただし、現時点ではPS(performancestatus)が良好で肝機能がChildPugh分類Aの症例のみでマルチキナーゼ阻害薬(ソラフェニブトシル酸塩)の有用性が証明されています。(17)(18)

[治療とケア]肝動注化学療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 肝動注化学療法を行った場合、腫瘍の縮小効果が認められるものの、生存期間については報告にばらつきがみられ、生存期間の延長を十分に証明した報告はありません。肝動注化学療法には予後改善の可能性があると考えられていますが、十分なエビデンスはないため、今後さらに研究が必要とされています。(19)

[治療とケア]再発の予防を目的として抗ウイルス薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] がんを除去したのちに、再発を予防するために抗ウイルス薬を用いることが専門家の意見や経験から支持されています。(20)~(23)

[治療とケア]放射線療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 他の標準的な治療法が適応にならない病態に対しては放射線療法が適応になることもありますが、まだ科学的根拠がある推奨はありません。切除不能症例に対してはTACEに放射線療法を併用することによって生存期間の延長が期待できます。(24)


よく使われている薬をEBMでチェック

分子標的薬
[薬名]マルチキナーゼ阻害薬:ネクサバール(ソラフェニブトシル酸塩)(15)(16)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 腫瘍の増殖を抑制する薬で、手術療法や肝動脈化学塞栓術などの局所療法による治療が難しい進行肝細胞がんにおいて使用することが推奨されています。適応となるのは肝障害度Aの肝機能が良好な患者さんで、その治療効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

抗ウイルス薬
[薬名]ハーボニー(レジパスビルアセトン付加物・ソホスブビル配合剤)(21)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ヴィキラックス(オムビタスビル水和物・パリタプレビル水和物・リトナビル配合剤)(22)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ダクルインザ(ダクラタスビル塩酸塩)+スンベプラカプセル(アスナプレビル)の2剤併用(23)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 肝がんの原因となるC型慢性肝炎・代償性C型肝硬変の患者さんの発がん予防には、抗ウイルス薬の内服による肝炎ウイルスの駆除療法が推奨されます。これらの薬による治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
もっとも確実な治療法は外科的切除
 いずれの治療法を用いても、腫瘍の大きさと数(複数の場所からがんが発生すると考えられています)、肺や脳、骨、副腎(ふくじん)などへの遠隔転移の有無により、治療後の経過は著しく異なります。
 現在のところ、遠隔転移がなく、切除可能な場所だけに発生している肝細胞がんにおいては、治癒が期待できる唯一の治療法は外科的切除と考えられます。

手術以外の治療方法なども
 外科的切除以外の治療法としては、血管造影下での肝動脈化学塞栓術(TACE)/肝動脈塞栓術(TAE)やラジオ波焼灼術(RFA)などが一般的ですが、肝移植が可能なこともあります。しかし、いずれも切除術にまさる効果は明確ではなく、腫瘍の大きさや数によって治療後の経過が決定されます。

慢性肝炎や肝硬変があれば、定期検査を
 外科的切除による治癒を可能にするためには、できるだけ早期にがんを発見することが必要です。肝がんのリスクが高い慢性肝炎(B型、C型)や肝硬変の患者さんは、3カ月に1回程度、血液検査と肝臓の超音波検査でチェックを受けるべきです。

化学療法を行う
 PSの保たれている肝障害Aの状態ではマルチキナーゼ阻害薬のネクサバール(ソラフェニブトシル酸塩)が有効です。ただし、ネクサバール(ソラフェニブトシル酸塩)は治療開始早期に手足症候群や皮疹(ひしん)、下痢(げり)、高血圧症などがおこる可能性があり慎重に経過観察する必要があります。

(1)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P87. 日本肝臓学会. 2013.
(2)Paquet KJ, Koussouris P, Mercado MA, et al. Limited hepatic resection for selected cirrhotic patients with hepatocellular or cholangiocellular carcinoma: a prospective study. Br J Surg. 1991;78:459-462.
(3)Cottone M, Virdone R, Fusco G, et al. Asymptomatic hepatocellular carcinoma in Child's A cirrhosis. A comparison of natural history and surgical treatment. Gastroenterology. 1989;96:1566-1571.
(4)Takayama T, Makuuchi M, Hirohashi S, et al. Early hepatocellular carcinoma as an entity with a high rate of surgical cure. Hepatology. 1998;28:1241-1246.
(5)A comparison of lipiodol chemoembolization and conservative treatment for unresectable hepatocellular carcinoma. Grouped'Etude et de Traitement du CarcinomeHepatocellulaire. N Engl J Med. 1995;332:1256-1261.
(6)Pelletier G, Ducreux M, Gay F, et al. Treatment of unresectable hepatocellular carcinoma with lipiodol chemoembolization: a multicenter randomized trial. Groupe CHC. J Hepatol. 1998;29:129-134.
(7)Bruix J, Llovet JM, Castells A, et al. Transarterial embolization versus symptomatic treatment in patients with advanced hepatocellular carcinoma: results of a randomized, controlled trial in a single institution. Hepatology. 1998;27:1578-1583.
(8)Llovet JM, Bruix J. Systematic review of randomized trials for unresectable hepatocellular carcinoma: Chemoembolization improves survival. Hepatology. 2003;37:429-442.
(9)Livraghi T, Goldberg SN, Lazzaroni S, et al. Small hepatocellular carcinoma: treatment with radio-frequency ablation versus ethanol injection. Radiology. 1999;210:655-661.
(10)Livraghi T, Giorgio A, Marin G, et al. Hepatocellular carcinoma and cirrhosis in 746 patients: long-term results of percutaneous ethanol injection. Radiology. 1995;197:101-108.
(11)Livraghi T, Benedini V, Lazzaroni S, et al. Long term results of single session percutaneous ethanol injection in patients with large hepatocellular carcinoma. Cancer. 1998;83:48-57.
(12)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P106. 日本肝臓学会. 2013.
(13)McPeake JR, et al.Liver transplantation for primary hepatocellular carcinoma:tumor size and number determine outcome. JHepatol. 1993;18:226-234.
(14)日本肝移植研究会. 肝移植症例登録報告. 移植. 2013;47:416-428.
(15)Llovet JM,et al;SHARP Investigators study group. Sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma. NEJM. 2008:359(4):378-90.
(16)Cheng AL, et al. Efficacy and safety of sorafenib in patients in the Asia -Pacific region with advanced hepatocellular carcinoma :a phase IIIrandomized, double blind, placebo-controlled trial.LancetOncol. 2009:10(1) 25-34.
(17)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P145. 日本肝臓学会. 2013.
(18)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P148. 日本肝臓学会. 2013.
(19)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P147. 日本肝臓学会. 2013.
(20)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P177. 日本肝臓学会. 2013.
(21)Mizokami M, Yokosuka O, Takehara T, et al. Ledipasvir and sofosbuvir fixed-dose combination with and without ribavirin for 12 weeks in treatment-naive and previously treated Japanese patients with genotype 1 hepatitis C: an open-label, randomised, phase 3 trial. The Lancet Infectious diseases. 2015;15:645-653.
(22)Kumada H, Chayama K, Rodrigues L, Jr., et al. Randomized phase 3 trial of ombitasvir/paritaprevir/ritonavir for hepatitis C virus genotype 1b-infected Japanese patients with or without cirrhosis. Hepatology. 2015;62:1037-1046.
(23)Chayama K, Suzuki F, Suzuki Y, et al. All-oral dual combination of daclatasvir plus asunaprevir compared with telaprevir plus peginterferon alfa/ribavirin in treatment-naive Japanese patients chronically infected with HCV genotype 1b: results from a phase 3 study. Hepatology. 2014;60:1135A.
(24)肝癌診療ガイドライン改訂委員会編. 肝癌診療ガイドライン2013年版. P161. 日本肝臓学会. 2013.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「肝がん」の解説

肝がん(肝細胞がん)
かんがん(かんさいぼうがん)
Hepatic cancer (Hepatocellular carcinoma)
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

どんな病気か

 肝がんには、肝臓そのものから発症した原発性(げんぱつせい)肝がんと、他の臓器のがんが肝臓に転移した続発性(ぞくはつせい)肝がん(転移性(てんいせい)肝がん)があります。原発性肝がんの約90%を肝細胞がんが占め、約10%が胆管細胞(たんかんさいぼう)がんです。一般的に肝がんというと肝細胞がんを指しています。

 日本では年間約3万1000人の肝がんによる死亡者がおり、男性では肺がん・胃がんに次いでがん死の第3位を占めています。2000年前後より肝がんの年間発症率は横ばいになりつつあり、肝がんで死亡する人はわずかに減少傾向にあります。

 肝細胞がんは他臓器のがんと異なり、基礎疾患として慢性の肝臓病(慢性肝炎(まんせいかんえん)または肝硬変(かんこうへん))のあることが多く、長期に“肝細胞の破壊・再生を繰り返すこと”が肝がん発がんの大きな原因と推定されています。B型肝炎ウイルスの保菌者では、ウイルスそのものが発がんを起こしうるとも考えられています。

原因は何か

 日本では、肝細胞がん患者さんの多くがB型またはC型肝炎ウイルスに感染していて、一部の患者さんは大酒家です。このような“肝硬変を起こしうる原因”は、同時に“肝細胞がんを起こしうる遠因”となっています。

 日本では、もともと肝障害がまったくない人に肝がんができることはまれです。ウイルス性慢性肝炎や肝硬変の患者さんでは、これらの病気が進行している人、高齢の人、男性などで、発がんの可能性が高い傾向があります。

症状の現れ方

 腹部超音波、X線CT、MRIなどの検査で発見される直径5㎝以内の肝がんであれば、通常は無症状です。直径が5~10㎝の肝がんになると、腹部が張った感じや腹痛などの症状を起こすこともあります。

 肝がんが大きくなるに伴って、肝機能が低下することが多く、もともとある“肝硬変が悪化した症状”として、黄疸(おうだん)や腹水の増加などの症状が出ることもあります。小型であっても、肝がんが破裂を起こして腹腔に大出血を起こすと、腹部の激痛と血圧低下が起こり、一気に生命が危険な状態に陥ることもあります。

検査と診断

 肝がんの診断は、腫瘍マーカーの測定(血液検査)と画像診断によって行われます。

 一番有名な腫瘍マーカーであるAFP(アルファ胎児性蛋白(たいじせいたんぱく))は、慢性肝炎や肝硬変だけでも高い数字を示すこともありますが、50~100ng/ml以上の高値になると肝がんを疑う根拠になります。第二の腫瘍マーカーであるPIVKA­Ⅱ(ピブカ・ツー)は3㎝以内の小型肝がんでは陽性になることが少ないのですが、陽性に出れば肝がん診断の特異性が高い(肝がん以外の病気であることが少ない)ことで有名です。

 直径2~3㎝の小型肝がんのうちに発見するためには、腹部超音波検査(図11)、CT(図12)、MRIなどの定期的な画像診断によるスクリーニング検査を続けることが必須です。肝がんは多くの場合、慢性の肝臓病がある人に現れるため、慢性肝炎や肝硬変の患者さんでは、年に数回の検査が行われます。

 直径2㎝以下の肝がんのなかには、腫瘍の性格がおとなしい高分化型(こうぶんかがた)肝がんのことがあり、通常の画像診断では確定診断が困難なことがあります。この場合には、細径針(さいけいしん)腫瘍生検(細い針で組織を採取して顕微鏡で診断する)を行うこともあります。

治療の方法

 肝細胞がんの治療法としては、①外科的肝切除、②経皮的エタノール局注療法(PEIまたはPEITと略)、③ラジオ波凝固療法(RFAと略)、④肝動脈化学塞栓(そくせん)療法、⑤放射線療法などがあります。最近では、これらの治療法が行えないような進行した肝がんに対して、分子標的薬といった内服治療により生存期間を延ばすことができることも知られています。

 肝がんは直径2~3㎝の大きさになると、門脈を経由して肝内各所に転移を始めます(肝内転移多発)。一方、肝細胞がんは基礎疾患として慢性肝疾患、とりわけ肝硬変があることが多く、いったん根治的に切除しても、新規の発がんを起こして再発することも少なくありません(多中心性多発)。

 実際の患者さんでは、この2つの多発のパターンをはっきり区別することは必ずしも簡単ではありませんが、前者の肝内転移多発のほうががんとしての性質が強く、生存率に及ぼす影響が大きいといえます。

 肝がんでは、この①多発性(1個か複数か)、②腫瘍の大きさ、③肝機能の重症度の3点を考慮してそれに適した治療法が選択されることが多く、さらに、④がんの存在部位(肝臓の表面か深部か)を考慮することもあります。

 代表的な治療法の長所・短所を表14にまとめました。肝がんに対して行われるさまざまな治療法は、“根治性”“多中心性発がんの起こりやすさ”“肝予備能”など、すべての観点を考慮して決定するもので、ただひとつの治療法が最も優れているということはありません。

 さまざまな治療法を柔軟に組み合わせて行うこと(集学的治療)こそが、肝がん患者さんの生活の質(QOL)を保ち、長期の生存につながるといえます。

病気に気づいたらどうする

 肝がんの症状は、基礎にある慢性肝炎や肝硬変の症状と非常に似ているため、肝がんであるという特有な症状、サインはほとんどありません。すなわち、腹水、むくみ、黄疸などの症状があっても、これが肝がんの症状であるかどうかの区別は困難です。

 急速に悪化する腹部膨満感(ぼうまんかん)(張り感)では、急激に増大しつつある肝細胞がんの可能性があります。また、強い腹痛は肝がんの腹腔内破裂(ふくくうないはれつ)(出血)の可能性があり、緊急にその状態を調べる必要があります。

 ALT(GPT)値の異常などの肝障害があったり、B型肝炎・C型肝炎ウイルスが陽性であれば、医師に対して腹部超音波検査を受けることを希望し、早い時期に肝臓内部のチェックをしてください。そして、基礎に肝臓病があって、腹部超音波やCTで肝臓内部に腫瘤(しゅりゅう)(しこり、影)が見られたら、ただちに肝臓の専門医の診察を受けてください。良性腫瘍のこともありますが、自覚症状の出てこない早期に肝細胞がんを診断することが、十分な治療を行うためにはどうしても必要です。

 受診する科目は、消化器科または内科です。病気の性格からは、肝がんと診断される前の段階(慢性肝炎、肝硬変)から、定期的に肝臓病の専門医に受診していることが大切です。こうすれば早期発見・早期治療の可能性が高くなります。

 生活面での注意は、背景の肝臓病の程度により禁酒、安静、食事制限などが要求される場合がありますが、一般にはこれ以上に特別なものはありません。

池田 健次


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

食の医学館 「肝がん」の解説

かんがん【肝がん】

《どんな病気か?》


 突然肝(かん)がんになるということはほとんどなく、肝機能の低下から肝炎(かんえん)や肝硬変(かんこうへん)をへて、肝がんにいたるケースがほとんどです。しかも、肝臓は「沈黙の臓器」といわれるように、症状がなかなか表面に現れません。
 肝機能の低下、また肝細胞を破壊する原因の1つにウイルスがあり、ウイルスによる肝炎から肝がんに移行しやすいこともわかっています。
 また、アルコールも肝機能を低下させる原因の1つ。アルコール性肝炎では、アルコールをひかえることにより、再生能力の高い肝臓は正常な機能を取り戻すことができます。

《関連する食品》


〈アサリ、シジミで肝機能を強化する〉
○栄養成分としての働きから
 正常な肝機能を維持し、肝細胞の破壊を防ぐための栄養素を第1に考えなければなりません。
 活発に肝臓を機能させるには、良質なたんぱく質が欠かせません。一般にシジミは肝臓によいといわれているとおり、たんぱく価が高く、肝臓の解毒作用があるタウリンも含んでいます。アサリやカキも同様に肝臓の機能を活発化させる食品です。
 また、肝機能が低下すると疲れやすくなりますが、これは肝臓で貯蔵しているビタミンCの代謝機能(たいしゃきのう)が低下しているからです。そのため、通常より多くのビタミンCを摂取する必要があります。同時にビタミンCを補給することにより、肝臓の働きを活発にします。レモンやオレンジ、グレープフルーツなどの柑橘類(かんきつるい)、ブロッコリーやトマト、ピーマンなどの緑黄色野菜で摂取しましょう。

出典 小学館食の医学館について 情報

知恵蔵 「肝がん」の解説

肝がん

日本のがん死亡率(男性)の第3位(2004年)。96%は肝細胞から生じる肝細胞がんで、肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎となり、さらに肝組織が再構築される経過のなかで、がん細胞が出現して肝がんとなる。患者の約20%はB型肝炎ウイルス、70%はC型肝炎ウイルスに感染している。アルコールのみによる肝がんは少ないが、アルコールはウイルスによる肝がんの危険因子とされる。初期には無症状で、腹痛、腹部膨満感、全身倦怠感等の症状が出た時はかなり進行している。多発性の時や肝硬変を伴っている場合は摘出は困難。直径2〜3cmの小さいがんに対しては、がんに栄養を供給している血管(肝動脈)を詰まらせたり、がん組織に直接アルコールを注入する方法で治療する。これらの治療法の成績はよいが、再発したがんや大きながんに対する有効な治療法はない。

(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝がん」の意味・わかりやすい解説

肝がん
かんがん

肝臓がん

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「肝がん」の解説

肝がん

 肝臓がんのことで,肝臓の悪性腫瘍の総称.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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