(読み)はい

精選版 日本国語大辞典 「肺」の意味・読み・例文・類語

はい【肺】

〘名〙
五臓一つ。高等脊椎動物呼吸器官。発生的には消化器官である食道一部が変化してできたもの。肺臓。〔日葡辞書(1603‐04)〕
② 「はいびょう(肺病)」の略。
其面影(1906)〈二葉亭四迷〉二八「夫人が肺で危ねえンだらう」
③ (航空機などの)エンジン。「片肺飛行

ふくふくし【肺】

〘名〙 肺(はい)古名。脾(ひ)臓を含めていうこともあったか。〔新訳華厳経音義私記(794)〕

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デジタル大辞泉 「肺」の意味・読み・例文・類語

はい【肺】[漢字項目]

[音]ハイ(漢)
学習漢字]6年
五臓の一。呼吸をつかさどる器官。「肺炎肺臓心肺塵肺じんぱい
心。「肺肝肺腑はいふ

はい【肺】

空気呼吸を行うための器官。両生類以上にみられ、胸腔に左右一対ある。内部は、無数の肺胞となっている。肺胞を取り囲む毛細血管との間で炭酸ガス吸気からの酸素との交換が行われる。肺臓。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肺」の意味・わかりやすい解説


はい

脊椎(せきつい)動物のなかで空気呼吸をする動物がもっている呼吸器官で、肺臓ともいう。肺は酸素と二酸化炭素(炭酸ガス)の交換を行うもっとも重要な臓器である。ヒトでは左右1対あり、全体の形は半円錐(はんえんすい)状である。肺は、胸腔(きょうくう)の中で中央を占めている縦隔とよぶ空間を挟んで、胸の左右に位置している。肺の上端は鈍円状にやや細くなっており、鎖骨上方に2~3センチメートル突出している。この部分を肺尖(はいせん)とよぶ。右肺尖のほうが左肺尖よりもわずかに高くなっている。肺の内側面は大部分が縦隔腔に面する縦隔面で、心臓を抱きかかえるように強くくぼんでいる。これを心圧痕(こん)という。内側面の後ろの一部分は脊柱(せきちゅう)に接しており、この部分を椎骨(ついこつ)面とよぶ。外側面は胸壁の内面に対応して弧を描くように突出し、肋骨(ろっこつ)に接するため、これを肋骨面とよぶ(肋骨面がもっとも広い)。下面は肺の底部になり、横隔膜の上にのっているため、横隔膜の凸湾状の形に即して強くくぼんでいる。これを横隔面とよぶ。

 肺の内側面のほぼ中央部には肺門があり(第5~第7胸椎の高さ)、この部分から気管支、血管(肺動脈、肺静脈、気管支動脈、気管支静脈)、リンパ管、神経などが出入する。これらは結合組織で束状に包まれており、肺根という。肺門の周囲にはリンパ節(肺門リンパ節)が発達している。肺門付近は腫瘍(しゅよう)の発生がしばしばみられ、これによって肺根部には障害がおこる。内側面と肋骨面の全面との境は前縁で、薄くなっている。後縁は鈍縁となる。また、肋骨面と横隔面との移行部である下縁は鋭くなっている。左右肺の前縁は、心臓の縁に沿って削られたようになっているが、とくに左肺前縁では著明となるため、心切痕とよばれる。

 肺の表面には、四角形あるいは六角形をした大きさ0.6~2.5ミリメートルほどの小区がみられる。これらは小葉間結合組織によってくぎられたもので、成人の肺ではこの小葉間結合組織に塵埃(じんあい)や他の沈殿物などが沈着するため、暗青色または黒色の線として認められる。しかし、乳幼児の肺では、これらの物質が沈着しないため、毛細血管網によって紅色を呈している。肺の表面には、右肺では2条、左肺では1条の深い切れ込みがある。すなわち、右肺は下方に斜裂、上方に水平裂があり、これらによって右肺は上葉、中葉、下葉に区分される。左肺は1本の斜裂により上葉と下葉とに区分される。右肺は左肺よりも大きく、その容積比はおよそ右4、左3(右600グラム、1200ミリリットル、左500グラム、1000ミリリットル)となっている。また、左肺は右肺よりも細長いとされている。

[嶋井和世]

気管支と肺胞

気管は第5胸椎の高さで左右の気管支に分かれ、それぞれ肺門から肺に入るが、肺門のところで、右肺では右上葉・中葉・下葉気管支が分かれ、左肺では左上葉・下葉気管支が分かれる。葉気管支は、それぞれの葉内でさらに一定の分布区域に行く区気管支(区域気管支)に分かれ、さらに細気管支(径1ミリメートル以下)、呼吸細気管支へと分岐して細くなる。各葉内の区気管支は詳細に分岐番号が付されるほか、それが分布する肺区域にも名称と番号がつけられている。つまり、これらは肺の構成単位とみなされているわけである。したがって、外科的にも肺区域を単位として肺切除手術をすることができる。呼吸細気管支になると太さも0.5ミリメートルくらいとなり、ここからはいくつもに分かれた袋状の肺胞に到達する。呼吸細気管支から肺胞に入る通路を肺胞管とよぶ。結局、肺の実質は無数の肺胞によって充満しており、その数はおよそ3億ほどといわれる。

 肺胞の大きさは径0.1~0.2ミリメートルで肺胞の壁は、肺胞上皮細胞によって構成されている。肺胞壁の周囲には肺胞毛細血管網が密に発達していて、この血管と肺胞上皮(厚さ0.3マイクロメートル以下)を通してガス交換が行われる。この肺胞の総表面積は50~60平方メートルといわれる。肺胞でのガス交換は酸素と二酸化炭素の分圧によって行われる。肺胞の表面には多量の弾性線維が存在するが、筋線維がないため、自ら伸縮する力をもたない。そこで、内外肋間筋(横紋筋)の活動によって胸郭の拡張・収縮がもたらされ(いわゆる呼吸運動)、肺胞内への空気の流通が行われる。肺の血管系では、呼吸機能に関係する肺動脈・肺静脈が分布する。栄養血管としては気管支動脈・気管支静脈が分布し、肺胞管あたりで両者の毛細血管が吻合(ふんごう)している。肺の神経は自律神経が支配しており、平滑筋の運動や腺(せん)分泌活動をつかさどっている。

 肺の表面には光沢のある胸膜(いわゆる肋膜)が肺に密着している。この胸膜を臓側(ぞうそく)胸膜とよぶ。臓側胸膜は肺の全体を覆うと、肺門の肺根の部分で折り襟のように反転して壁側(へきそく)胸膜へと移行し、横隔膜上面と胸壁内面を覆う。臓側胸膜と壁側胸膜との間には閉じられた狭い空間があり、胸膜腔として内部に胸膜液を満たしている。この液によって、肺の呼吸運動の際、胸壁との摩擦が防がれる。胸膜腔は陰圧であるため、外気と通じると、いわゆる気胸となり、呼吸困難などをおこす。

[嶋井和世]

動物の肺

原則的には空気呼吸のための器官で、両生類以上の脊椎(せきつい)動物にみられ、ある種の魚類にもある。発生的には咽頭(いんとう)から派生した器官で、咽頭の腹壁正中線上に空気の入口があり、気管に続く。両生類では気管が短いが、多くの羊膜類では気管が長く、先が2本の気管支に分かれる。肺は左右1対ある。原始的な肺は単純な嚢(のう)状をなすにすぎないが、発達した肺では、そのひだが高くなり、さらに球状の肺胞という小胞が集団をつくり海綿状になって表面積を増している。肺胞の外側は、毛細血管が包み、血液と肺胞内の空気との間でガス交換が行われる。

 魚類のうきぶくろは肺と相同器官であるが、消化管に対して背側に位置している。硬骨魚類全骨類のアミアのうきぶくろは一種の肺で、内面が胞状に隆起していてえらの補助器官となっている。同じ硬骨魚類でも腹側に膨出した、左右2室からなる肺には、多鰭(たき)類にみられる単純な嚢状のものと、肺魚類(プロトプテルス属、レピドシレン属)のようにひだの発達したものとがある。一般に肺は浮力調節にも役だつもので、ある種の両生類では肺は呼吸よりも浮力調節の作用がおもである。鳥類では肺そのものは小さいが、多数の気嚢がついていて体の比重を軽くする。哺乳(ほにゅう)類の肺は全体が大きく無数の肺胞からなっている。軟体動物有肺類の肺は、外套膜(がいとうまく)に包まれた外套腔(こう)で、肺嚢ともいう。脊椎動物の肺と同じく、呼吸器官および浮力調節器官として働いている。

[川島誠一郎]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肺」の意味・わかりやすい解説


はい
lung

陸上動物の呼吸器官の一つ。両生類以上の脊椎動物にみられる。魚類の鰾 (うきぶくろ) と相同器官。肺魚類では鰾が肺の働きを兼ねる。発生学的には,鰓裂直後の消化管の腹側に突出したふくらみの先端から分化する。ヒトでは,胸部の大部分を占める,左右1対のほぼ円錐形の大きな臓器をいう。袋状の器官で,気管を経て外界と通じ,外面に分布した血管を介してガス交換を行う。高等なものほど多くの肺胞を生じ,表面積を広く発達させている。肺の上端はとがっていて肺尖といい,鎖骨よりもやや上方まで延び,底面は凹面をつくって横隔膜に接している。左右の肺は縦隔をはさんで相対し,相対する面の中央を肺門といい,気管支と肺動静脈の出入口となっている。左肺は上下2葉,右肺は上中下の3葉に分れ,各葉はそれぞれ小葉に分れている。肺全体の表面は肺胸膜という薄膜でおおわれ,この膜は肺門部で反転して,胸腔の壁面をおおっている。この2重になった胸膜の間隙を胸膜腔という。胸膜腔には小量の漿液があって,呼吸時の内外膜面の摩擦を防いでいる。肺の内容は血液,リンパ管,神経のほか気管支,細気管支,肺胞などによって気道が構成されている。

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百科事典マイペディア 「肺」の意味・わかりやすい解説

肺【はい】

陸生脊椎動物の呼吸器官。魚類のうきぶくろに起源をもつと考えられる。ヒトの肺は胸膜に包まれて胸郭内に左右1対ある。きわめて弾力に富んだ嚢状の器官で,構造的には気管支の細分したものと血管の細枝との組合せの集団である。気管支の細かく分かれた先には肺胞があり,ここでガス交換が行われる。右肺は上,中,下の3葉から,左肺は上,下の2葉からなる。肺の上端は細くとがって肺尖(はいせん),下面は横隔膜にのる凹面で肺底と呼ばれ,左肺右肺の内側面のほぼ中央には左右の気管支,肺動脈,肺静脈の出入する肺門がある。肺門付近には肺内からのリンパ管の集まるいわゆる肺門リンパ節がある。
→関連項目呼吸器官

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世界大百科事典 第2版 「肺」の意味・わかりやすい解説

はい【肺 lung】

陸上生活に適応した脊椎動物がもつ呼吸器官。一般に両生類以上の四肢動物がもつ。空気中から体内(血液中)に酸素をとり込み,体内でつくられた炭酸ガスを空気中へ排出するガス交換(外呼吸)の機能を果たしている。肺は魚類のうきぶくろ(鰾)と同じ起源と考えられている。
【肺の起源】
 酸素の摂取に関しては,魚類のようにえら(鰓)によって水中からとり込むことに比べ,空気中からとり込むことははるかに有利である。なぜなら,魚類がえらによって,水1lからとり込むことのできる酸素の量は,0.04~9mlにすぎないが,肺は空気1lの吸入によって105~130mlの酸素を摂取しうるからである。

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栄養・生化学辞典 「肺」の解説

 胸部内にありガス交換をする臓器.

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世界大百科事典内のの言及

【体】より


[呼吸と循環]
 体のなかで栄養素の代謝によって発生したエネルギーが消費される場合,酸素の供給を必要とし,その作用の結果,炭酸ガスが生じる。これらガスの効果的な交換は,呼吸器とくに肺と血液,さらに血液を肺から体のすみずみにまで循環させる循環器によってなされている。呼吸器の主役は左右のと,そのなかへ空気を送り込む気道,すなわち鼻腔,喉頭,および気管,気管支である。…

【呼吸】より

…18世紀にはフロギストン(燃素)説の誤りを経て,ラボアジエが燃焼での酸素の役割を確定する。呼吸も体内での酸化として位置づけられたが,熱をだす燃焼と同じことが体内でも起こると考えられたので,J.L.ラグランジュは,肺のみで燃焼が起これば肺は高熱になりすぎると論じた。ここからかえって,酸素は全身末梢組織に分配されるはずだとの正しい見通しが生まれた。…

※「肺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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