膀胱の内部は移行上皮細胞におおわれており、膀胱がんのほとんどはこの移行上皮から発生します。40歳以上の男性に多く、年間10万人中約10人の発生率です。
はっきりとした原因は不明ですが、喫煙する人ではしない人と比較して膀胱がんが2~3倍多くなります。また、染料や化学薬品(アニリン系色素やベンチジン、2ナフチラミンなど)を扱う職業で膀胱がんの発生頻度が高くなっています。
長期間膀胱結石があったり、膀胱周囲の血管系に寄生するビルハルツ
医薬品では、フェナセチンやシクロホスファミドに発がん作用が認められています。
初発症状として最も多いのは血尿で、赤色や褐色の尿の自覚や、尿検査などで発見されます。この血尿は痛みなどを伴わないのが特徴で、「
さらに尿管が閉塞してしまうと、
血尿や膀胱炎の症状などがあり、尿検査などで膀胱がんが疑われれば検査を行います。通常、膀胱がんは隆起しているので、膀胱鏡検査でその一部分をとって顕微鏡検査を行い、確定診断となります。膀胱鏡検査は、病変の性状や大きさ、数、発生部位なども観察することが可能です。膀胱がんは多発することがあり、膀胱鏡検査で見た目ではわかりにくい場合、肉眼的に正常と思われる部位からも生検します。また、尿中の異常細胞を調べる尿細胞診も診断に有用です。
進行度を調べるために、腹部CT・MRI、腹部および経尿道超音波検査、排泄性尿路造影などが行われます。転移がないかどうかを調べるため、胸部X線、腹部CT、骨シンチグラフィなども行われます。
治療は、前述の検査によって得られたがんの状態や転移の有無、患者さんの年齢や体力などを考慮して決定されます。
①膀胱壁の比較的浅い部分までに限局している場合(
経尿道的膀胱腫瘍切除術が行われます。これは、腰椎麻酔をしたうえで尿道から膀胱鏡を入れ、電気メスで腫瘍を切り取る治療です。また、再発防止のために抗がん薬の膀胱内注入が行われることがあります。
がんが膀胱壁の最も浅い層である粘膜内に限局している場合(上皮内がん)には、BCG(結核のワクチン)の膀胱内注入が行われることがあります。
②膀胱壁のより深い部分に及んでいる場合(
標準的な治療としては、膀胱全摘除術および尿路変更術(膀胱を取ったあと、尿を出すための経路をつくる手術)が行われます。これは全身麻酔下で行われる手術で、膀胱と周囲のリンパ節のほかに、男性であれば
続いて行う尿路変更術には、
・尿管皮膚瘻
左右の尿管を皮膚につなぎ、腎臓までカテーテルを入れて、そこから排尿するものです。手術としては簡単ですが、常に尿が出てくるので袋をつけておかなければなりませんし、感染の危険もあります。
・回腸導管造設術
小腸の一部を切り取って、そこに左右の尿管をつなぎ、その小腸の一端を皮膚につないで排尿するものです。感染などの合併症が少ない方法ですが、やはり常に袋をつけておく必要があります。
・自然排尿型代用膀胱
小腸を用いて作成した代用膀胱を元の膀胱と置き換えて、元と同じ尿道口より排尿する方法です。最も生理的な方法ですが、尿道を温存できる場合しか適応となりません。腹圧によって排尿することができますが、うまくできない場合には自己導尿が必要になることもあります。
これらの尿路変更術の選択は、症例により異なるので、病変の状態や本人の希望、それぞれの長所や短所などを考慮して手術前に十分検討する必要があります。
転移があるような進行がんや、全身状態に問題がある場合、手術を希望しない場合には、抗がん薬による治療が行われ、通常2種類以上の薬剤を組み合わせて投与されます。
メトトレキサート(メソトレキセート)、ビンブラスチン(エクザール、ビンブラスチン)、ドキソルビシン(アドリアシン)、シスプラチン(ランダ、ブリプラチン)の4種類を組み合わせたMVAC療法が、膀胱がんに対して最もよく行われる化学療法です。放射線併用治療も行われています。
また、手術の前に抗がん薬による治療を行うこともあり、これは「術前補助療法」と呼ばれます。一方、手術のあとに抗がん薬による治療を行うこともあり、こちらは「術後補助療法」と呼ばれています。
膀胱がんは血尿で始まることが多い病気ですが、血尿があればすべて膀胱がんというわけではありません。しかし、血尿を自覚したり、尿検査などで異常を指摘されたりした場合にはいろいろな病気が考えられるので、その際は泌尿器科や腎臓内科の専門医に相談してください。
西野 友哉, 古巣 朗, 河野 茂
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
膀胱粘膜上皮に発生する悪性腫瘍で,膀胱腫瘍の90%以上を占める。膀胱腫瘍には,このほかに悪性腫瘍である膀胱肉腫や良性の平滑筋腫などがあるが,きわめてまれである。また良性の膀胱乳頭腫は,再発をくり返す性質などから,臨床的には悪性の膀胱癌に準じて取り扱われている。50~60歳代の男性に多く,尿の発癌物質が関与していると考えられている。ベンジジンやナフチルアミンのような芳香族アミンに長期間接触する者に膀胱癌が多発することが知られており,このような職業性膀胱癌は色素工場従事者に多くみられる。一方,自然発生の膀胱癌にはアミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝産物が発癌に関与しているとされているが,必ずしも確定しているわけではない。症状は血尿が最も多い。血尿のみで他の症状をまったく欠くことが多く,これを無症候性血尿と呼び本症に特有である。腫瘍が原因となって膀胱炎を合併し,頻尿や排尿痛をくり返すこともある。腫瘍が進行すると,尿管の膀胱開口部を圧迫,閉塞し水腎症や腎盂腎炎(じんうじんえん)を起こしたり,リンパ節や肺,肝臓,骨などに転移して,神経痛,肺炎,全身衰弱などが起こる。診断には膀胱鏡検査が行われる。このほかにX線検査や超音波検査を行い,腫瘍がどの程度進行しているかを知ることが治療のうえに大切である。小さい初期のものでは,膀胱を切開することなく,尿道から特殊な膀胱鏡を挿入し電気メスで切除したり焼灼するだけで治癒する。大きいものや進行したものでは,下腹部を切開して膀胱を腫瘍とともに一部切除したり,膀胱と前立腺を一塊として全部摘出する膀胱全摘出術を行うこともある。膀胱全摘出術を行った場合は,小腸などを用いた人工の膀胱を作り,これを通して腹壁から直接尿を出さなければならない。リンパ節や肺,肝臓に転移している場合は,放射線療法や抗癌剤の投与を行うが根治は困難である。本症は一度治癒しても再発しやすいので,定期的な検査を続けることが必要である。
執筆者:上野 精
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
泌尿器系では最もよくみられるがんで、表在がんと
表在がんであれば致命的にはなりませんが、再発を繰り返すのが特徴で、浸潤がんに進むこともあります。浸潤がんでは、他の部位へ転移している確率が高くなります。
●おもな症状
無症候性(とくに症状がない)の血尿が特徴です。60歳以上で血尿がある場合はとくに要注意。がんが進行すると排尿時の痛み、
①尿検査/尿の細胞診
▼
②膀胱尿道造影
▼
③膀胱鏡検査/生検(病理診断)
膀胱尿道造影と膀胱鏡検査が中心に
これらの検査でがんが疑われたら、膀胱鏡検査を行います。この検査は、長さ30㎝くらいの細い金属製の筒を尿道口から挿入して、膀胱と尿道の様子を観察します。腫瘍の有無、その性質などが診断でき、検査と同時に病変も採取(生検)して診断を確定します。
また、膀胱がんでは
その他、おもにがんの浸潤や転移の様子を調べるために超音波やCT、MR(→参照)など、また、尿路の変化をくわしく調べるために
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…インドなど,タバコやビンロウの実や葉をかむ習慣のある地方では口腔癌が多発している。エジプトやイラクに膀胱癌が多いのは,エジプトジュウケツキュウチュウ(住血吸虫)症がその誘因をなしている。
【癌の発生と成長】
癌はしばしば,診断を受けてから1年も経ないうちに命を奪うので,癌細胞がいったんできたら非常に急速に大きくなるように思えるが,それはかなりのところ誤解である。…
…皮膚癌は,鉱油や石炭熱分解産物取扱い者やX線取扱い者にみられる。肺癌起因物質にはヒ素,タール,ピッチ,クロム塩(とくに3価クロム),ニッケルが,膀胱癌起因物質にはα‐,β‐ナフチルアミン,ベンジジンがある。近年注目されているのはブレーキライニングや建築用スレート,保温材などの石綿(とくにクロシドライト)による肺癌と胸膜,腹膜の中皮腫である。…
※「膀胱癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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