〈2~10歳くらいの小児にみられ,多くは起床時,ときに日中,急に元気がなくなり,ぐったりとし,嘔吐をはじめ,血液中ケトン体の上昇,アセトン尿をともなう疾患〉と説明され,同一小児にくり返して起こりやすい。この状態は,医学的にはアセトン血性嘔吐症acetonemic vomitingあるいは周期性嘔吐症cyclic vomitingと呼ばれているもので,〈自家中毒〉という言葉がまったく無関係な食中毒を連想させる響きをもつことから,現在では,この状態を表現するには,自家中毒という病名よりも上記の診断名を用いるのが適切であると考えられている。このような症状は脳炎,髄膜炎,尿毒症,肝炎,急性虫垂炎,腹膜炎,腸重積症,脳腫瘍,糖尿病性昏睡でもみられるので,これらを確実に鑑別することがたいせつで,原因の明らかでない場合のみ,本症(アセトン血性嘔吐症)と診断をつける。したがって,2回目の発作以後の診断は容易であるが,1回目の発作では診断が困難な場合もある。
本態の詳細は不明であるが,おそらく軽度の気道感染,食餌過誤および精神的ストレスなどが誘因となって延髄の嘔吐中枢が興奮し激しい嘔吐を起こさせ,同時に間脳の自律神経中枢も興奮し,脂肪組織から血中へ遊離脂肪酸が動員され,その結果,肝臓におけるアセトン体の生成が増加し,アセトン血症を起こすものと考えられる。
臨床症状をまとめてみると,2歳から10歳くらいの子どもで,いつも元気に起きる子どもが,よく目覚めず,ごろごろとして元気がない。また一度起きても食欲がなく,ときに腹痛を訴えたりする。そのうちに嘔吐が始まり,はじめは前に食べたものを吐くが,しだいに胃液,胆汁様のものを吐き,ときに血液が胃酸で茶褐色になったいわゆるコーヒー残渣様のものを吐くようになる。しだいにうとうととなり,意識がはっきりしなくなる。嘔吐の回数が多いと,脱水症状すなわち皮膚や粘膜の乾燥がみられ,脈拍も速く小さくなり,顔面蒼白となる。幼児期から学童初期の小児に起こることが多く,この嘔吐発作は,同一小児に反復する傾向にあるが,10歳前後までには,ほとんどの小児で自然に消失する。予後は一般に良好で合併症や後遺症もない。検査所見としては,血中・尿中のアセトン体の増量,血液pHの低下,代謝性アシドーシスがある。
治療としては,病初期あるいは軽症の場合は,安静を保たせ,鎮吐薬またはブドウ糖液の注射を行う。中等症~重症の場合は飲食物を禁じ輸液療法を行う。予防(発作のないときの治療)としては,精神的・肉体的過労を避け,かつ過保護に注意する。
執筆者:瀧田 誠司
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