最新 心理学事典 「自己愛傾向」の解説
じこあいけいこう
自己愛傾向
narcissistic personality
1980年には,アメリカ精神医学会American Psychiatric Association(APA)による『精神障害の診断と統計の手引きDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)』の第3版(DSM-Ⅲ)において,パーソナリティ障害の一つとして,自己愛性パーソナリティ障害narcissistic personality disorderの診断基準が掲載された。第4版の修正版(DSM-Ⅳ-TR)には,次の九つの基準のうち少なくとも五つ以上を満たすことで,自己愛性パーソナリティ障害と診断されることが書かれている。⑴自己の重要性に関する誇大な感覚をもつ。⑵限りない成功,権力,才気,美しさ,あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。⑶自分が「特別」であり,独特であり,他者にも自分をそのように認識することを期待する。⑷過剰な賞賛を求める。⑸特権意識,つまり特別有利な取り計らい,または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。⑹対人関係で相手を不当に利用する,つまり自分自身の目的を達成するために他人を利用する。⑺共感の欠如。⑻しばしば他人に嫉妬する,または他人が自分に嫉妬していると思い込む。⑼尊大で傲慢な行動,または態度。また,DSM-Ⅲに自己愛性パーソナリティ障害の診断基準が掲載されるのと前後して,ラスキンRaskin,R.とホールHall,C.S.による,自己愛人格目録narcissistic personality inventory(NPI)が開発された。この尺度が発表されて以降,病理としてではなく,一般のパーソナリティ傾向としての自己愛傾向を,実証的に研究する試みが世界中で行なわれるようになった。初期においては,NPIの構造を検討したり,他尺度との関連を探索的に検討したりする研究が多く見られた。自己愛性パーソナリティ障害の患者数は,臨床場面において多いとはいえない。また,自己愛的であったとしても,必ずしもその人物が臨床場面に現われるわけではない。このような点から,通常範囲の人びとを対象とした調査を行ない,理論モデルを検証する非臨床アナログ研究としての自己愛の研究が重要視されている。近年では,NPIによって測定される自己愛傾向の位置づけが明確化されてくるにつれて,自己愛をその内部に組み込んだ理論モデルが検討されるようになった。たとえば,自己愛傾向が不安定な自己肯定感に関連し,そのことが攻撃性を生じさせるという,バウマイスターBaumeister,R.F.らによる自己本位性脅威モデルthreatened egotism modelが代表的なものである。 →自己 →自己意識感情 →力動心理学
〔小塩 真司〕
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