改訂新版 世界大百科事典 「ガス爆発」の意味・わかりやすい解説
ガス爆発 (ガスばくはつ)
gas explosion
水素,メタン,プロパンのような可燃性ガスやガソリン,アルコールなどの可燃性蒸気が空気と燃焼範囲(可燃範囲,爆発範囲ともいう)内の組成に混合しているとき,これに点火して生じた火炎は,そこを中心に周囲に伝播していく。火炎は2000℃前後の高温であるため,燃焼ガスは膨張し,空間が閉じていれば,そこの圧力は上昇する。本来,ガス爆発とは,このような可燃性混合気中の火炎伝播の現象を指す。しかし,空間条件は多岐にわたるので,現実には多くのガス爆発の形態があり,ふつうこれらは次の三つに分類できる。第1は密閉空間内のガス爆発で,エンジン気筒内における混合気の爆発がその例である。この場合,容器は圧力上昇に耐えるように作ってあるので破壊は起こらず,そのエネルギーはピストンの仕事に変えられる。第2の形式は開口部のある閉囲空間内のガス爆発と呼ばれ,開口は初めから設けられている場合と爆発の初期に弱い部分が破損して生ずる場合とがある。住宅,ビル,工場,炭坑などで起こる爆発事故がこれに属し,多くは窓ガラスや扉が開口部として作用する。最後の形式は開放空間中のガス爆発で,貯槽から大気中に可燃性ガスが漏れたり,地表や海面上に液体が流出したときに形成される可燃性ガス雲の着火時に起こる。
火炎伝播の挙動は空間の形状,状態によって変わるが,一般に火炎の移動速度は初めは遅く,後に加速を受ける。このため密閉空間内の圧力上昇は,ほぼ時間の3乗に比例して増加する。しかし,開放空間では圧力上昇はほとんどなく,また開口部があると,そこから冷たい未燃ガスおよび高温の燃焼ガスが順次放出されるので,開口の生じた時点以後の圧力上昇は減少する。火炎が加速する原因は混合気の乱れ,圧縮などとみられ,したがって乱れの大きい状況においては爆発は激しい。実際のガス爆発では,このような条件が満たされやすいので危険は増す。しかし,火炎が著しく加速されたとき,その前面に発生する衝撃波と火炎がいっしょになって進む爆轟(ばくごう)という現象は,住宅の爆発事故のような普通の条件下では,ガスの種類,規模からみて,容易には起こりそうにない。
執筆者:秋田 一雄 炭鉱では石炭採掘に伴ってメタンガスが発生する。メタンは空気中に5~15%(容量)あるとき火源に触れれば爆発を起こし,9.5%のとき最も強く爆発する。この5~15%の範囲がメタンの爆発限界である。爆発限界内のメタンに着火すれば爆発が起こるが,このとき高熱のために気体は急激に膨張し,大きな圧力のガスを前方,後方に強力に押し出す。これが衝撃波となって坑道を急速につき進み,引き続き爆炎がその後を進行する。この衝撃波が沿道を破壊し,爆炎は火傷,火災の原因となる。この爆炎が通過した後酸素がほとんど消費しつくされ,燃焼生成物(後ガス)が冷却されて収縮し,水蒸気は凝縮して水滴となるため容積は急に減じ真空に近い状態となる。これを補うため急激に坑外から爆源地に向かって空気を引き込む現象が起こる。メタンの着火温度は条件によって異なるが,一般に640~750℃といわれ,爆発時は最大温度上昇1800℃,爆圧7kgf/cm2程度,爆発伝播速度10~2000m/sといわれている。爆発を防止するには,火気,電気火花,摩擦熱等の発火源を排除するとともに坑内通気,ガス抜き等によって空気中のメタンの濃度を薄くするようにしなければならない。
執筆者:大橋 脩作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報