花井お梅(読み)はないおうめ

改訂新版 世界大百科事典 「花井お梅」の意味・わかりやすい解説

花井お梅 (はないおうめ)

新内節曲名本名題《梅雨衣酔月情話(つゆごろもすいげつじようわ)》。1887年6月9日,東京日本橋浜町の料亭酔月楼の女主人花井お梅が,番頭の峰吉を刺し殺した事件は当時評判になり,《東京絵入新聞》は虚実とりまぜた読物〈花井於梅酔月奇聞〉を連載した。その一部を5世富士松加賀太夫が脚色し,88年3月に作曲したもの。明治期の作品らしく当時の風俗が巧みにとり入れられており,〈うきふし繁き……〉や〈向うへチラチラ小提灯……〉などはよく知られた曲節で,現在も流行している。なお,この題材は河竹黙阿弥作の《月梅薫朧夜(つきとうめかおるおぼろよ)》,伊原青々園作,真山青果脚色の《仮名屋小梅(かなやこうめ)》,川口松太郎作《明治一代女》などの芝居のほか,流行歌にもとりあげられている。
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朝日日本歴史人物事典 「花井お梅」の解説

花井お梅

没年:大正5.12.14(1916)
生年:元治1(1864)
明治時代の芸者。下総国佐倉(千葉県)生まれ。本名ムメ。9歳のとき江戸日本橋吉川町の岡田常三郎の養女となり,15歳で柳橋雛妓となった。一本立ちしてからは宇田川屋秀吉と改め,浮名を流した。明治20(1887)年実家にもどり,実父の名義で日本橋浜町に待合茶屋「酔月楼」を開業したが,実父と営業のことで意見が対立。番頭の八杉峰吉(本名峰三郎)が実父に加担してお梅追い出しをはかったことから,同年6月9日,隅田川河畔で峰吉を刺殺無期徒刑の判決を受けた。同35年特赦により出獄汁粉屋などを営んだが,女役者となり,芝居で自分の経歴を演じ続けた。河竹黙阿弥が「月梅薫朧夜」として歌舞伎化し,のち川口松太郎の『明治一代女』などにもとりあげられた。<参考文献>綿谷雪『近世悪女奇聞』

(関井光男)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「花井お梅」の解説

花井お梅 はない-おうめ

1863-1916 明治-大正時代の女性。
文久3年生まれ。はじめ東京新橋の芸者,のち日本橋浜町に待合酔月楼をひらく。明治20年実父との不和にからんで番頭箱屋峰吉こと八杉峰三郎を刺殺して無期徒刑。特赦で36年出獄し,舞台で体験を演じる。歌舞伎の「月梅薫朧夜(つきとうめかおるおぼろよ)」,新派の「明治一代女」などの題材となった。大正5年12月14日死去。54歳。下総(しもうさ)佐倉(千葉県)出身。
【格言など】何事も覚悟しました。罪も悔い改めました(死の前日,医師へいったことば)

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「花井お梅」の意味・わかりやすい解説

花井お梅
はないおうめ

新内節の曲名。本名題『梅雨衣酔月情話 (つゆごろもすいげつじょうわ) 』。 1888年5世富士松加賀太夫作曲。その前年,日本橋浜町酔月楼の女将お梅が番頭の峰吉を刺殺するという事件があり,当時の『東京絵入新聞』に『花井於梅酔月奇聞』として連載された。本作はそれを脚色して新内節にしたもの。「大川端の段」が人気があり,写実的・劇的で明治期の代表曲とされる。後編として「花井お梅自訴の段」があるが,あまり演奏されない。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「花井お梅」の解説

花井お梅
(通称)
はないおうめ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
月梅薫朧夜 など
初演
明治21.4(東京・中村座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の花井お梅の言及

【サカダ】より

…収穫が終わるとその間に蓄えたわずかばかりの賃金をもって故郷に帰ってゆく。全貌を示す正確な数字は見当たらないが,最近行われた調査によると,ネグロス島の糖業関係労働者の1~2割がこうしたサカダ労働力によって供給されていること,最大の供給先としてパナイ島のアンティケ,アクラン,カピスの諸州があげられ,全サカダ労働力の86%を占めたと報告されている。サカダが社会的に注目されるのは,一般に賃金水準が著しく低いこと,農園内の生活環境が著しく劣ることなどの労働条件の劣悪さと,賃金のピンはね,前貸金からの高利徴収,といった手配師の目に余る中間搾取が存在するからである。…

※「花井お梅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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