川口松太郎(1899-1985)の短編小説。《オール読物》1935年9~12月号に連載発表。東京柳橋叶家(かのうや)の芸者お梅は,ふとした縁で歌舞伎役者沢村仙枝(せんし)と愛しあうようになったが,芸者の意地から仙枝の3代目仙之助襲名披露のための大金をつくらなければならなかった。お梅を愛する箱屋の巳之吉(みのきち)は,仙枝と別れ自分といっしょになってくれるならと故郷の土地を売り金をつくる。お梅は条件をのんでその金を仙枝に用立てたものの,やはり仙枝とは別れられなかった。お梅の真意を知った巳之吉は浜町河岸でお梅に切りかかるが,はずみで逆に殺される。襲名披露興行の初日,逃げていたお梅は仙枝の楽屋にあらわれ,襲名の口上を聞きながら自害する。1887年(明治20)実際に起こった花井お梅の殺人事件を題材に,恋と意地に生きる明治の女を哀切に描いた作者の代表作。1935年11月明治座で,作者の脚色,花柳章太郎主演により初演,好評を博し,以後新派の当り狂言となる。同年日活で,田坂具隆(ともたか)監督,入江たか子主演により映画化された。
執筆者:藤木 宏幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
川口松太郎の新派戯曲。『オール読物』1935年(昭和10)9~12月号連載の同題の小説を原作者が自ら脚色。同年11月東京・明治座初演。歌舞伎(かぶき)役者沢村源之助を慕う柳橋芸者花井お梅が箱屋の八杉峰吉を殺した事件を劇化したものには、河竹黙阿弥(もくあみ)の『月梅薫朧夜(つきとうめかおるおぼろよ)』(1888)や伊原青々園(せいせいえん)の小説を真山青果(まやませいか)が脚色した『仮名屋小梅』(1919)があるが、川口作では、お梅は従来とは逆の受け身一方のおとなしい女であり、巳之吉(みのきち)(峰吉)も敵役でなく純情いちずの男で、仙枝(源之助)も含めて感情のもつれから起きた純愛悲劇になっている。花柳(はなやぎ)章太郎のお梅、大矢市次郎(いちじろう)の巳之吉はともに当り役の一つであった。
[土岐迪子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…明治期の作品らしく当時の風俗が巧みにとり入れられており,〈うきふし繁き……〉や〈向うへチラチラ小提灯……〉などはよく知られた曲節で,現在も流行している。なお,この題材は河竹黙阿弥作の《月梅薫朧夜(つきとうめかおるおぼろよ)》,伊原青々園作,真山青果脚色の《仮名屋小梅(かなやこうめ)》,川口松太郎作《明治一代女》などの芝居のほか,流行歌にもとりあげられている。【竹内 道敬】。…
※「明治一代女」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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