花を使って時刻を表示するしかけ。本来は,開閉時間の異なる花を巧みに組み合わせて,時計の機能を果たさせるものを指したが,現在では日時計や機械時計を花壇に設置した装飾的なものを示すようになった。花の生態学的な特性を時計として利用する発想は17世紀のキルヒャーを先駆とし,太陽の運行にしたがって向きを変えると信じられていたヒマワリを用いた奇抜な花時計案が,その著《磁石論》(1643)で公表された。本格的には1740年代にリンネが数十種の花を組み合わせた花時計を立案している。たとえば1745年に発表された例では,1時間ごとの2種の花の開閉によって午前6時から午後6時までを表示した。〈午前の花〉はおもに開花を,〈午後の花〉はおもに閉花を指針としたものである。リンネはこれを,太陽の見えない曇天の日も,時計を見ることのできない野原にいる場合も,正確な時刻を知りうる装置,と呼んだ。彼の発想は後世の生物時計の研究へつながり,生物の概日周期発見の発端ともなった点で重要である。他方,19世紀以降は季節の花を飾った広場や公園の花壇に巨大な機械時計や日時計が配されるようになり,スイスのジュネーブ・インターラーケンやイギリスのエジンバラ植物園をはじめ多くの大植物園に作られた。日本では宮沢賢治がデザインした花巻温泉の時計花壇などが知られている。
執筆者:荒俣 宏
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植物の花は季節、種類により、ほぼ定まった時刻に開花する。その性質を利用して、開閉時間の異なる花を組み合わせて植えた花壇をいう。この花時計の考え方は、植物学者のリンネが、ほぼ定まった時刻に花が開閉するのを見て時計のかわりになると考え、1750年ごろスウェーデンのウプサラ大学の構内に植栽したのが本格的な始まりといわれている。花の開花は、原産地、季節、天候、種類によって大きく左右され、実際の利用にはたいへんむずかしい面が多い。現在では、花の開花時刻とは別に機械による時計を設置し、文字盤になる部分に花や葉の美しい植物を植えた、装飾的な花時計となっている。また時計盤になる面は、普通15度程度傾斜させて見やすいようにくふうされている。外国ではイギリスのエジンバラ王立植物園、スイスのジュネーブのものが知られ、日本では神戸市市役所前(1957)、神奈川県立フラワーセンター大船植物園(1967)などのほか、東京都駒沢(こまざわ)オリンピック公園、札幌市市民会館前(1958)、北海道音更(おとふけ)町、静岡県伊豆市土肥(とい)港の松原公園(1991)などに設置されている。
[堀 保男]
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※「花時計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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