改訂新版 世界大百科事典 「葉山信仰」の意味・わかりやすい解説
葉山信仰 (はやましんこう)
東北地方南部を中心に分布する作神的性格をもつ信仰。葉山は端山,羽山,麓山などと記されるが,奥山や深山(みやま)に対する里近くの端山を意味する。多くは村はずれの山の上に小祠を設けてまつられ,祭神を羽山祇神,少彦名(すくなびこな)命とし,薬師如来を本地と説く。山形県村山市の葉山からの勧請(かんじよう)をいう社もあるが,葉山修験との直接の関係を示す史料は見いだせない。葉山信仰の特徴は作占における託宣儀礼にある。祭礼は春秋に行われるが,作神信仰なので春は豊作祈願,秋は豊作感謝の性格を示す。とくに春は4月8日(卯月八日)の祭日が多く,この日に満願となるようにハヤマゴモリと称し,祭りに参加する村の男たちが夜籠,水垢離など精進潔斎し,そのなかからノリワラと呼ばれる憑巫(よりまし)が選ばれる。ノリワラが手に幣束を持ち,村人が祝詞を唱えるなかを,先達と呼ばれる宮司が鈴をならすと,ノリワラの持つ幣束が激しくゆれ,神がつく。そこで先達が作柄,天気,世の中のことなどを質問し,筆記係が記録して村の一年の運勢をみる。祭りのほかにも,失せ物判じや井戸の水脈さがしなどにノリワラをたて神託を聞くことが行われた。福島県下には,類似の習俗に〈地蔵つけ〉と呼ばれる憑依,託宣儀礼も報告されており,かごめかごめの童戯にその信仰のなごりをとどめている。山形県米沢市笹野では同様の儀礼が〈山の神祭〉として4月17日に行われ,ノリウマという憑巫をたてて作占をする。普通の村人が,はやしたてられて憑依し,託宣をするところに葉山信仰の古態がある。地域の作神,山の神信仰をもとに,修験道の影響により今日の葉山信仰が展開したと考えられる。目の神,水神,稲荷信仰との習合など地域により差異がみられるのは,宗教者の関与と土着信仰の交渉の結果であろう。宮城県気仙沼市赤石,白石市白川の羽山神社などでは〈ゴンダチ祝〉と称し,7歳のときにお山がけして一人前,一人だちするという通過儀礼にも結びついている。また葉山には,山と里を結ぶ接点として祖霊のいます山としての観念もみうけられることは注意すべきである。
執筆者:佐野 賢治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報