葵上(読み)あおいのうえ

百科事典マイペディアの解説

葵上【あおいのうえ】

(1)能の曲目。四番目物。怨霊(おんりょう)物。五流現行。六条の御息所(みやすどころ)の嫉妬(しっと)の生霊(いきりょう)が,ライバルの葵上(光源氏の正妻。1枚の小袖(こそで)で病臥の態を表現)を苦しめ,鬼形と変じて法力と抗争する。人間の潜在意識の恐ろしさを描いた名作。世阿弥の改作。詞章,演出ともにすぐれ,しばしば上演される。(2)(1)に取材した地歌・山田流箏曲・河東節一中節・長唄の曲名。〈葵の上〉の表記が多い。地歌は,上方舞の舞地にも。箏曲は,1809年以前に山田検校作曲。流祖作品中,最も位の重い奥の四曲(よつもの)の一。その影響下に河東節・一中節が成立。河東節以下は,幕末から明治期の作。

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世界大百科事典 第2版の解説

あおいのうえ【葵上】

(1)能の曲名 四番目物。世阿弥以前の作。シテは六条御息所(ろくじようのみやすどころ)の生き霊。光源氏の正妻葵上は病床にある。病因を知るために巫女(みこ)(ツレ)に(あずさ)の法を行わせると,梓の弓の音に引かれて貴婦人(前ジテ)が現れる。名を尋ねると六条御息所の怨霊(おんりよう)と名のり,恨みごとを述べたてる。御息所は,皇太子妃として花やかな宮廷生活を送った身だったが,夫に先立たれた。その後光源氏と親しくなったが,近ごろでは仲が遠ざかり,顧みる人さえなくなったのが恨めしいとかきくどき,光源氏の愛を奪った葵上をののしる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

葵上
あおいのうえ

能の曲目。四番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)の伝書『申楽談儀(さるがくだんぎ)』にも記載があり、近江(おうみ)猿楽系の古作を世阿弥が改作した曲。出典は『源氏物語』の「葵」の巻。高貴な女性の心理の深層に潜む嫉妬(しっと)の恐ろしさを、みごとな詞章、作曲と、華麗な演出の妙で見せる名作。物の怪(もののけ)に苦しむ葵上(光源氏の正妻)は、舞台先に延べた1枚の小袖(こそで)で表現する。臣下の者が巫女(みこ)(ツレ)を呼び出して、たたっている者の正体を現す呪法(じゅほう)を命じる。六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生霊(いきりょう)(前シテ)が登場。昨日の花は今日の夢となった元皇太子妃の華やかな生活との別離、光源氏の愛の衰えを嘆き、興奮に身をゆだねて葵上を打ち据え、賀茂の祭で葵上から屈辱を受けたその破れ車に乗せて連れ去ろうとする。病状の急変に横川小聖(よかわのこひじり)(ワキ)が招かれ、祈り始めると、鬼形(きぎょう)となった生霊(後シテ)が現れ、法力と争い、葵上を取り殺そうとするが、ついに屈服し、恨みの心を捨てて終わる。『葵上』は海外公演も含め上演頻度最高の能で、山田流箏曲(そうきょく)など邦楽や舞踊、戯曲など後世への影響が大きい。三島由紀夫の『近代能楽集』の題材ともなった。[増田正造]

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