日本大百科全書(ニッポニカ) 「薄膜(はくまく)」の意味・わかりやすい解説
薄膜(はくまく)
はくまく
thin film
このことばに術語としての明確な定義はないが、だいたいにおいて1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)以下の厚さの膜をさす。薄手の紙やセロファン紙の厚さが数十マイクロメートルだから、常識的には非常に薄い膜のことである。古くから知られている薄膜のよい例は金箔(きんぱく)で、厚さが0.1マイクロメートル以下のものがある。水面上の油膜(雨の日に道路の水たまりなどで干渉色を示している)やめっき層は、下地の上にのっており独立した膜ではないが、これらも薄膜とよばれている。この場合は厚さがナノメートル(1000分の1マイクロメートル)の桁(けた)のものもある。より薄くなると、多分子層や単分子層(または原子層)となるので、明確な境はないが、薄膜とはよばれない。
薄膜は古くから物理学上の興味をひいていたが、これが技術的に重要になったのは、1950年以降といってもよい。薄膜技術は光学器械やマイクロエレクトロニクスで重要な役割を演じている。光学レンズは表面が薄青色に見えるが、これはガラス表面を他の物質の薄膜で覆い(いわゆるコーティング)、表面反射を減らしているからである。計算機の小型化に役だっている(薄膜)集積回路は薄膜技術の粋を集めたものといえる。薄膜の製作技術も非常な進歩を示し、電気めっきなどの湿式法よりも、真空蒸着法や気相中の反応を用いる方法が多く用いられている。
[上田良二・外村 彰]