藤戸(読み)フジト

デジタル大辞泉 「藤戸」の意味・読み・例文・類語

ふじと〔ふぢと〕【藤戸】

岡山県倉敷市の地名。児島半島がもと島であったころは本土と「藤戸の渡し」で結ばれていた。源平合戦古戦場
謡曲四番目物。源平の合戦で藤戸の先陣のおり、佐々木盛綱口封じのために漁師を殺した。漁師の母が盛綱に恨みを述べ、盛綱が弔うと漁師の亡霊が現れる。

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精選版 日本国語大辞典 「藤戸」の意味・読み・例文・類語

ふじとふぢと【藤戸】

  1. [ 一 ] 岡山県倉敷市の地名。児島半島の基部にあたる。古くは児島湾に面していて、海岸は藤戸浦として知られ、藤戸の渡しがあった。源平の合戦の古戦場。
  2. [ 二 ] 謡曲。四番目物。各流。作者未詳。「平家物語」による。藤戸のわたり先陣の功によって備前国児島を賜わった佐々木盛綱が領地にはいると、老女が来て盛綱に殺されたわが子を返してくれと嘆き訴える。盛綱は去年のこの地の戦いに、漁夫に浅瀬を教えてもらって功をたてたが、他に漏れることを恐れて殺したと語り、その男の供養を行なう。すると男の亡霊が現われて最期ありさまを語り、供養のおかげで成仏できるといって消える。

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改訂新版 世界大百科事典 「藤戸」の意味・わかりやすい解説

藤戸 (ふじと)

平曲,能の曲名。

(1)平曲。平物(ひらもの)。拾イ物。敗戦で四国,九州の海域をさまよう身となった平家一門にとって,深まりいく秋のあわれはひとしおだった(〈三重(さんじゆう)・初重〉)。源氏方は源範頼を総大将として名だたる武将の数を連ね,3万余騎で播磨の室(むろ)に着いた。屋島を根拠地とした平家は,源氏を迎え撃つため,平資盛(すけもり)を総大将に500余隻の船団を備前の児島に向かわせたので,源氏も同国の藤戸に布陣した(〈拾イ〉)。しかし海を隔てた対陣なので,船がない源氏は攻めかねていた。佐々木盛綱は,海を渡ろうと浦の男を手なずけ,馬で渡れる瀬のような所を教わり,ただ2人で出かけて水深を調べたが,他人に洩らしはしないかとその男を刺し殺してしまった。戦になると,盛綱は家来たちと7騎で海を渡りはじめ,範頼の制止もかまわず対岸に上がったので,全軍が後に続き,敗れた平家方は屋島に退却し,盛綱はその功で児島を賜った(〈拾イ〉)。拾イの部分が全曲の大半を占める。後出の能と違って瀬を教わるところは重点にしていない。

(2)能。四番目物。作者不明。前ジテは漁夫の母。後ジテは漁夫の怨霊(おんりよう)。佐々木盛綱(ワキ)は,藤戸の先陣の功によって賜った備前の児島に,初めて領主として乗り込み,訴えごとがあれば申し出よと領民に触れを出した。すると年たけた女(前ジテ)が来て,罪もないわが子が海に沈められたことの恨みを述べる。盛綱は隠しきれず,浅瀬を教えてくれた漁夫を殺して海に沈めたいきさつを物語る(〈語り〉)。女は,二十(はたち)余りまで育てた愛児を失った悲しみを訴え,わが子を返せと盛綱に迫る(〈クセ〉)。盛綱が弔いをすると,漁夫の怨霊(後ジテ)が瘦せ衰えた姿で現れる。怨霊は,殺されたときの苦痛を述べて盛綱に襲いかかろうとするが,結局は弔いの功徳で成仏する(〈中ノリ地〉)。戦功の犠牲となった庶民の激しい怒りを,本人と母親の2人を舞台に登場させることで,強く深く掘り下げて描いている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「藤戸」の意味・わかりやすい解説

藤戸(能)
ふじと

能の曲目。四番目物。五流現行曲。作者不明だが、能の名作の一つ。佐々木盛綱(もりつな)(ワキ)は、藤戸の戦いの恩賞として備前の児島(こじま)の領主となり、意気揚々と赴任し、訴訟ある者は申し出よと布告する。馬で島を攻めることの可能な藤戸の浅瀬を教えたばかりに、機密漏洩(ろうえい)を恐れた盛綱に刺殺された漁師の母(前シテ)は、その理不尽を訴え、わが子と同じように殺せと領主に迫る。後悔した盛綱は、漁師の追善供養を営む。漁師の亡霊(後シテ)は、死骸(しがい)を沈められた海から浮かび上がって、戦功の原因は自分なのだから、どんな恩賞もあってよいはずなのに、殺すとは何事かと恨みを訴えるが、弔いに成仏して終わる。武将の行為を当然の配慮として肯定する原典の『平家物語』に対し、非人道の行為を激しく告発しているところに、能の主張がある。

[増田正造]


藤戸(岡山県)
ふじと

岡山県南部、倉敷市の一地区。旧藤戸町。児島(こじま)半島の基部にあるが、かつて半島が本土と陸繋(りくけい)化する以前は児島の北岸にあり、本土とは藤戸の渡しで結ばれていた。1184年(元暦1)の源平藤戸合戦の古戦場であり、佐々木盛綱(もりつな)が戦死者を供養した藤戸寺がある。また、この合戦を題材とした世阿弥(ぜあみ)作の謡曲『藤戸』がある。近世は藤戸寺の門前町、金毘羅(こんぴら)往来の要地であり、また倉敷川の川湊(かわみなと)であった。

[由比浜省吾]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「藤戸」の意味・わかりやすい解説

藤戸
ふじと

能の曲名。四番目物。作者未詳。藤戸の合戦で先陣の功をあげた佐々木盛綱 (ワキ) が,新領地の備前の児島で訴訟ある者は申し出よとのおふれを出すと,一人の中年の女 (前シテ) が進み出て,わが子を殺された恨みを述べる。盛綱は女に問い詰められ,若い漁師に海の浅瀬を教えられて先陣の功を立てたが,他言を恐れて漁師を海に沈めたことを告白する。女はその漁師の母であった。盛綱は非をわびて弔いを約束し,女を家に帰らせる (中入り) 。盛綱が管絃講で弔ううち,漁師の幽霊 (後シテ) が現れ,海に沈められ流されてゆくさまを再現するが,やがて弔いの功徳で成仏する。『平家物語』中の短い盛綱功名譚に拠りながら,戦功の犠牲になった庶民の怒りにテーマをしぼった,劇的起伏に富む能。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「藤戸」の解説

藤戸
(通称)
ふじと

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
音響藤戸濤
初演
慶応3.7(江戸・市村座)

藤戸
ふじと

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
延宝6(江戸・市村竹之丞座)

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