岡山市南端にある瀬戸内海の湾。記紀で「穴海」と称された海域は、児島半島東端にあたる
近世に入ると、児島湾は吉井川・旭川・
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
岡山県南部,児島半島北側の湾。古くは島であった児島半島と本土との間は,多数の島が散在し吉備の穴海(あなうみ)と呼ばれ,ここが瀬戸内海航路の主要ルートであった。高梁(たかはし)川,笹ヶ瀬川,旭川,吉井川の堆積作用で近世初頭には児島が陸繫され,西側は阿知潟,東側は児島湾となった。湾は北岸から干拓が進められたが,大規模なものとして17世紀の沖新田,19世紀の興除新田,明治期の藤田組による藤田開墾(藤田農場),第2次大戦後の六区および七区がある。1963年の七区完工により干拓事業は終了した。干拓地の農業用水確保などの目的で,岡山市築港と同市郡(こおり)の間を堤防で締め切り,1962年に児島湖(淡水湖,面積1100ha)ができ,これは日本最初の複式干拓となった。この結果,児島湾の残存部分はわずかになり,児島湖,旭川,吉井川の排水路のような状態となった。締切り堤防にはかつての渡船に代わって,岡山市街と児島半島とを短絡する道路が造られた。湾奥の旭川西岸に岡山港があるが,県は東岸側に新港を建設した。さらに東岸側から岡山~玉野間の産業道路の児島湾大橋が架橋された。かつての児島湾は魚類が豊富で,ことにウナギ,シラウオが名産であった。また今は干拓地となった干潟では,明治から昭和初期にかけてハイガイ,モガイ(サルボオガイ)の養殖,採取が行われた。これら浅海独特の漁業は干拓と児島湖出現で消失した。湾中の高島には古墳時代の祭祀遺跡がある。
執筆者:由比浜 省吾
中世末期から近世にかけて土砂堆積がすすみ,児島湾は遠浅となって大規模な干拓が続出した。早くは1580年代に岡山城主宇喜多秀家が備中の倉敷から早島にかけていわゆる〈宇喜多堤〉を築いて,児島湾干拓の口火を切った。岡山藩治下での干拓は,北岸から南下する形で初めは民営で行われ,土豪開発の米倉新田(30町)や町人請負の金岡新田(232町)が注目される。17世紀後半になると,藩主池田光政は津田永忠を起用して藩営新田の造成に主力を注いだ。最初の藩営新田は1679年(延宝7)に完成した倉田新田(300町)で,ついで84年(貞享1)幸島(こうじま)新田(562町),92年(元禄5)沖新田(1540町)が造成された。藩営新田の開発経費には,津田永忠が企画した社倉米制度による利米銀が投入された。沖新田以後は岡山藩域内での地先海面の干拓が一応限界に達したので,備中諸領との境界地域である湾西部に集中するようになり,1世紀余の間は国境紛争や漁場争論が繰り返された。しかし近世後期に至って,幕命による大規模な干拓が施行されることになった。1823年(文政6)完成の興除新田(839町)や52年(嘉永5)竣工の福田新田(543町)は,いずれも幕命による倉敷代官の監督下で,岡山藩請負の形で児島郡大庄屋らの手で施行された。これらの干拓で米麦および商品作物の栽培が発展し,岡山藩財政が潤ったことは注目される。明治以後は初め士族授産事業として小規模干拓が試みられたが,本格的には藤田組が1899年着工した藤田農場があり,戦後は農林省直轄工事としての広大な干拓が1963年まで続いた。
執筆者:谷口 澄夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…前者は従来日本で多くとられた方式で,後者はオランダにおいて一般に行われている。日本で第2次大戦後行われた児島湾の干拓や八郎潟干拓は後者の形式をとった。【多田 敦】
[適地条件]
海面干拓では,(1)河川の堆積作用が大きくて干潟が拡大すること,(2)海底が平たんで,みお筋(干潟内の流水路)が少なくないこと,(3)潮汐の干満の差が大きくて干拓地の排水がよいこと,(4)築堤費が造成費の約1/2をしめるから,堤長に比して造成地が広くできること,(5)築堤する地盤の地耐力が強く,堤防が沈下しないこと,(6)外洋からの風波,潮流が堤防,樋門(ひもん)などに悪影響をあたえないこと,(7)干拓地の灌漑,除塩のために用水が豊富であること,(8)工事用資材とくに石材,築堤用土が多量,安価に得られること,(9)干拓地の造成によって,漁業,用水,排水などの既得権益への補償が小さいこと,などがあげられる。…
※「児島湾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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