ヒトの腸内菌叢を形成する細菌の1種。グラム陽性の杆菌で,母乳栄養児の糞便中に他の細菌より優位に存在し,ビフィズス菌叢bifidus floraを形成するが,人工栄養児糞便中には大腸菌群が多く,ビフィズス菌は少ない。ビフィズス菌は,糖を分解して,乳酸,酢酸,ギ酸などを産生するので,母乳栄養児の腸内容は酸性に傾く。腸内容が酸性であると大腸菌や他の病原性腸内細菌は増殖しにくく,またビフィズス菌そのものが,大腸菌などと拮抗してその増殖を抑制するので,ビフィズス菌は母乳栄養児の腸内感染症による罹患率,死亡率を低くするのに役立っていると考えられている。人乳中には乳糖が多量に含まれているが,この乳糖の一部は小腸で分解されず大腸に至り,ビフィズス菌叢の酵素の働きで分解されて腸内の酸性環境をつくることを助け,人乳中のビフィズス因子が,ビフィズス菌の増殖を促進し,さらに人乳中のラクトフェリン,リゾチームなどが大腸菌の増殖を阻止するなど,いくつもの因子が重なって,母乳栄養児の腸内ではビフィズス菌叢が優位を占めるようになる。最近,育児用調製粉乳中にビフィズス菌の増殖を助ける物質(ラクチュロースやガラクトシルラクトースなど)を添加したものが市販されているが,このような操作によって,人工栄養児の糞便も酸性に傾き,腸内でのビフィズス菌の増殖がみられるようになっている。病的状態(ウイルス,病原性細菌の腸内感染時など)では,母乳栄養児の糞便中のビフィズス菌は減少,消失する。
ビフィズス菌には,主として母乳栄養児の腸管内で増殖するもののほか,成人の腸内や,ヒト以外の動物の腸内で増殖するいろいろな亜種があることがわかっている。
人乳中に存在して,ビフィズス菌の腸内での発育を促進する物質をいい,1952年ギョールギーP.György(1893-1976)によってはじめて発見された。人乳に含まれる,窒素を含むオリゴ糖がその本体で,人乳中に多く含まれ,牛乳中には人乳の約1/100程度しか存在しない。ギョールギーが発見したビフィズス因子は,ビフィズス菌のある亜種に対してしか発育促進効果がなく,他の亜種に対しても有効な物質を発見するための研究が行われて,現在,何種類かのビフィズス因子の存在が試験管内で確認されている。
ビフィズス因子の作用機序は,ビフィズス因子を構成するN-アセチルグルコサミンがビフィズス菌の細胞壁の素材として必要であること,オリゴ糖が小腸で消化されずに大腸に至り,そこでビフィズス菌に分解されて養分になること,分解によって生じた有機酸が腸内環境を酸性に傾かせ,これがさらにビフィズス菌の発育に有利な条件を提供することなどが考えられている。
→母乳
執筆者:澤田 啓司
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…乳酸菌は,食品工業,発酵工業の分野で,乳酸飲料,チーズ,バターなどの生産その他に関与しており,このような分野では,糖を分解して主として乳酸を産生する細菌をすべて乳酸菌と呼ぶ傾向がある。たとえば,ビフィズス菌属Bifidobacteriumは,分類学上は放線菌目アクチノミセス科に属しているが,乳酸菌製剤として市販されている。これは,ビフィズス菌が長年にわたって乳酸杆菌属Lactobacillusに属すると考えられていたためでもある。…
※「ビフィズス菌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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