脳梗塞(こうそく)や脳出血など、(脳の)血管障害が原因となる認知症疾患。VDと略称される。定義としては、(1)認知症状態、(2)脳血管疾患、(3)脳血管疾患の発症に認知症状態が後続する時間的関連性がある、の3点が骨子である。従来、日本では血管性認知症がもっとも多い認知症とされていたが、現在はアルツハイマー病である。また、卒中発作の都度、段階的に悪化するのが血管性認知症の臨床経過の特徴だとされてきたが、血管性認知症の基盤となる脳血管障害には多くのタイプがあり、臨床経過もさまざまに異なるので、一概にそうだともいえない。
[朝田 隆 2023年5月18日]
2012年(平成24)10月時点での65歳以上の人口における認知症の有病率調査(厚生労働省)では、全認知症のうち18.9%が血管性認知症で、アルツハイマー病に次いで多いことが示された。なお、日本における過去3回の全国調査では、65歳以下の若年性認知症においては最多、もしくはアルツハイマー病に次いで多いことが示されている。
[朝田 隆 2023年5月18日]
血管性認知症の四つの主要なタイプについて以下に述べる。
(1)ラクナ梗塞による血管性認知症
脳の血管は太い血管から細い血管へと分枝しているが、脳の深い部分に酸素や栄養を送り届ける細い血管(穿通枝(せんつうし))が詰まると、脳の深い部分に血液が行き渡らなくなる。これがラクナ梗塞で、脳細胞が壊死(えし)することで症状が引き起こされる。なおラクナとはラテン語で「小さなくぼみ」を意味する。このようなラクナ梗塞が多く生じている状態は、全血管性認知症患者の33~70%にみられるとされる。また大脳の深い部分は白質とよばれるが、ここに小さな脳梗塞が無数に生じていたり、広範囲に分布したりすることがある。こうした状態は「ビンスワンガー病」とよばれる。これもラクナ梗塞と同じ病理学的基盤を有する。これらのタイプは緩徐に進行するので、アルツハイマー病と見誤られることがある。
(2)多発梗塞性認知症
比較的大きな血管の閉塞に起因するこのタイプは、血管性認知症の20%余りを占める。多くの場合、血管病変は多発性かつ両側性(左右両方の脳に生じる)である。臨床症状は病巣の分布に応じて多様である。このタイプの臨床経過は以前からいわれてきた「卒中発作の都度、段階的に悪化するもの」である。
(3)戦略的脳卒中による血管性認知症
いわばピンポイントの脳血管性病変に起因する血管性認知症である。単発の脳梗塞であっても認知機能にとって重要な部位(戦略的部位)の障害によっておこる。とくに視床、尾状核、大脳基底部、帯状回前部といった部位の脳血管障害が多い。
(4)脳出血による血管性認知症
とくに視床や前頭葉皮質下における中等大以上の脳出血、またアミロイドアンギオパチー(アミロイドタンパクが脳の動脈に沈着し、血管壁がもろくなって出血をきたしやすくなった状態)による多発性の皮質下出血などによっても認知症を呈することがある。
以上の血管性認知症では、認知症のない脳血管障害やアルツハイマー病に比較して、死亡率は高く平均余命も短い傾向にある。発症からの50%生存期間は6.7年、14年生存の可能性は2%以下とされる。
[朝田 隆 2023年5月18日]
前述の四つのタイプに共通する身体面以外の認知症としての臨床的特徴については、前頭葉皮質から皮質下機能回路の障害が基本になる。すなわち、注意機能と遂行機能の障害(たとえば、物事をスムーズにスタートできない、同じことをやったり言ったりし続ける)が、他の認知症性疾患に比べて顕著になりやすい。
[朝田 隆 2023年5月18日]
治療の基本は脳卒中の1次予防、すなわち血圧管理や動脈硬化の予防、糖尿病の進行阻止など危険因子への対応である。また2次予防(再発予防)の観点からは、脳卒中発作後早期からのリハビリテーションが強調される。なぜなら、寝たきりに代表されるADL(日常生活動作)の低下は、脳循環代謝低下を助長し、認知症を促進させるからである。
また周辺症状(BPSD)として、血管性認知症では抑うつや譫妄(せんもう)、興奮などさまざまな精神症状が出現しやすい。こうした症状に対する薬物療法として、現在国内ではアマンタジン、チアプリド、ニセルゴリンが保険適用になっている。
[朝田 隆 2023年5月18日]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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