行政刑罰(読み)ぎょうせいけいばつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「行政刑罰」の意味・わかりやすい解説

行政刑罰
ぎょうせいけいばつ

行政上の義務違反に対して科せられる罰(行政罰)のうち、刑法刑名のある刑罰懲役禁錮罰金拘留、科料。刑法9条)をいう。行政法規の実効性を担保する方法として広く用いられる。たとえば、各種無許可営業罪、無免許運転・酔っぱらい運転・スピード違反などの道路交通法違反罪がその例である。社会的法益を侵害する行政犯に科される。秩序罰としての過料は、行政罰の一種であるが、直接には社会的法益を侵害しない軽微・形式的な違反行為に対して科せられる点で行政刑罰と区別される。また行政刑罰は、それ自体として反社会性・反道徳性を有する行為に対して科される刑事罰と異なり、単に行政法規の不遵守に対して科されるものであるが、刑罰に変わりはないので、別段規定がある場合のほかは、刑法総則の適用を受け(刑法8条)、裁判所が刑事訴訟法手続に従って科する。ただし、違反行為者のほか、その使用主や事業主も科刑される(両罰規定)し、法人も事業主として処罰されることが多いという特色がある。処罰手続についても、国税犯則取締法関税法による通告処分、道路交通法による反則行為の処理手続、交通事件即決裁判手続法による即決裁判等の特別手続がある。このほか、故意、法人の犯罪行為、他人の行為に対する責任について、行政犯の特殊性にかんがみ、明文の根拠なくして刑法と異なる解釈をする意見が有力だが、それは罪刑法定主義に反するとの反論もある。

[阿部泰隆]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「行政刑罰」の意味・わかりやすい解説

行政刑罰
ぎょうせいけいばつ
Verwaltungsstrafe

行政法規の違反が,直接的に行政上の目的を侵害し,または社会法益を侵害する場合に,刑法に刑名の定めのある刑罰を科する行政罰の一種。行政罰のなかでは最も普通の例であり,特別の規定がある場合のほかは,原則として刑法総則が適用され,通常裁判所において刑事訴訟法の定める手続によって科せられる。

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世界大百科事典(旧版)内の行政刑罰の言及

【行政罰】より

…行政法規やそれに基づく行政行為によって課せられた義務の違反に対して,制裁として科せられる罰を行政罰といい,行政罰を科せられるべき義務違反を行政犯という。行政罰のうち,刑法に刑名のあるもの(懲役,罰金,科料等)を行政刑罰といい,過料という名称のものを行政上の秩序罰という。行政罰のうち,警察上の義務違反に対して科せられるものを警察罰,経済統制上の義務違反に対して科せられるものを統制罰,財政上の義務違反に対して科せられるものを財政罰という。…

※「行政刑罰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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