日本国憲法は,裁判官が罷免される場合を,心身の故障のために執務不能と決定する裁判による以外に〈公の弾劾〉による場合に限っており(78条),その公の弾劾を行うために両議院の議員で構成される弾劾裁判所を国会に設けること,弾劾に関する詳細を法律で定めることを命じている(64条)。それをうけて,国会法が弾劾裁判所について,さらにこの裁判官弾劾法(1947公布)および裁判官弾劾裁判所規則(1949公布)が他の事項について定めている。
その主要な内容は次のとおりである。まず,国会法は,裁判官を罷免するための訴追を,衆参両議院の議員の中から選挙された同数の訴追委員で組織する訴追委員会が行うと定めており(126条),それに基づき,裁判官弾劾法は,委員の数を10名ずつ20名としている(5条)。弾劾による罷免の事由として,(1)職務上の義務に著しく違反し,または職務をはなはだしく怠ったとき,(2)その他職務であると否とを問わず,裁判官としての威信を著しく失うような非行があったときとされる(2条)。ある裁判官についてこれらの事由に該当すると思われるときは,だれでも罷免の訴追をするよう訴追委員会に求めることができ(15条),訴追委員会は,その請求があったとき,または委員会独自の判断で,その事由について調査を行う(11条)。次に,委員会は,その調査に基づいて,裁判官の罷免の訴追または訴追の猶予を決定する(出席訴追委員の3分の2以上の賛成を要する。10,13条)。訴追されると,弾劾裁判所における裁判が開始される。その裁判所は,衆参両議院から選挙された7名ずつの議員による裁判員とそれら裁判員が互選した裁判長で構成される。裁判は公開の法廷で行われ(26条),上記の事由に該当するとの結論に達する(審理に関与した裁判員の3分の2以上の多数意見による)と罷免の宣告がなされ,それにより当該裁判官はその資格を失う(37条)。ただし,罷免の裁判を受けた者は,一定の要件のもとに,資格回復の裁判を請求することができる(38条)。なお,弾劾裁判所は,国会の本来の機関でないから,国会の会期外でもその活動をする。
→弾劾
執筆者:戸松 秀典
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