改訂新版 世界大百科事典 「複合文書」の意味・わかりやすい解説
複合文書 (ふくごうもんじょ)
古文書学上の用語。差出人から届けられた文書に対する命令,指示,返事等は,それを受け取った人が別紙にしたためて差出人に与えるのが普通である。しかしその手続を省略して,受け取った文書に直接その命令等を書き込んで差出人に返却することがある。この場合には本来の形は1通の文書であるが,その中に2通の文書が収められていることになり,これを複合文書という。平安末期ごろには各地の荘園の住人等は,国役(こくやく)等の免除を請う解状(げじよう)を国司に提出するが,国司はこの解状の右端の余白部分にそれを認める旨を記して(これを国司免判(こくしめんばん)あるいは外題(げだい)という)返却する。すなわち本来は1通の解状であるが,それに国司免判が加えられて,2通の文書の役割をしているのである。
鎌倉幕府が1303年(嘉元1)以降採用した外題安堵のある御家人の所領の譲状,証判の加えられた着到状・軍忠状,また届けられた書状に〈勘〉を加え,それに対する返事を書き込んだ勘返付き書状も複合文書である。99年(応永6)2月,東寺長者俊尊は足利義満の重厄の祈禱のための料所として長者渡領であった大和国弘福寺幷河原荘を東寺に寄進するが,その寄進状に義満が袖判を加えている(《東寺文書》)。この袖判は義満が俊尊の寄進を承認したことを示す証判である。このように袖に花押あるいは印判で証判を加える場合もあり,いずれも複合文書である。
執筆者:上島 有
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報