改訂新版 世界大百科事典 「東寺文書」の意味・わかりやすい解説
東寺文書 (とうじもんじょ)
京都の東寺(教王護国寺)に伝来した文書の総称。〈東寺百合文書(とうじひやくごうもんじよ)〉,〈東寺文書〉(狭義の),〈教王護国寺文書〉が主たるものであるが,そのほかわずかずつ各所に分蔵されている。このうちで中心となる〈東寺百合文書〉は平安時代以来,東寺がその必要から集積した文書で,東寺の法会仏事に関するもの,荘園経営を中心とした寺院経済に関するものなど,古代・中世寺院としての東寺の運営全般にかかわる内容をもつ。この中には各法会組織の議事録である引付も多数みられ,平安時代以降の政治・経済・社会に関する必須の史料である。東寺の宗教活動が鎌倉中期以降急速に活発になること,ほとんど火災の被害にあわなかったことなどの理由で,鎌倉中期以降の文書の密度が高い。江戸時代になって,加賀藩の5代松雲公前田綱紀は,この文書の目録を作って一部を書写し,百の桐箱を寄進してこれに収めたので〈百合文書〉と名付けられた。1967年東寺から京都府に譲渡され,府立総合資料館において整理が完了,国の重要文化財に指定され一般に公開されている。指定時の員数は2万4014通である。つぎに狭義の〈東寺文書〉と称する一群の文書は,六芸(礼楽射御書数)の箱に収められた81巻547通と,五常(仁義礼智信)の箱に収められた文書および千字文の号を有する文書が中心となる。これらはもと百合の箱に収められていたものであるが,美術品として,また史料として高い価値を認められ,江戸中期ごろ,巻子(六芸)あるいは懸幅(五常,千字文)に仕立てられたもので,東寺に現存する。このうち六芸は国の重要文化財に指定されている。つぎに〈教王護国寺文書〉は,京都大学文学部所蔵の354巻約3000通の文書である。これももと百合の箱に収められていたものであるが,すべて東京大学史料編纂所の影写本に未収録のものである。1968年東寺から京都大学に譲渡され,国の重要文化財に指定されている。
執筆者:上島 有
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報