ちはや【襅・千早】
- 〘 名詞 〙
- ① 巫女など、神事に奉仕する女や台所仕事などをする女が用いた襷(たすき)。
- [初出の実例]「供神今食料〈略〉細布三丈二尺 戸座襅并
(ちはや)料」(出典:延喜式(927)一) - [その他の文献]〔書陵部本名義抄(1081頃)〕
- ② 巫女、先払いの神人、楉持(しもともち)などが着る服。白の裾の長い小忌(おみ)の肩衣(かたぎぬ)の一種。ちはやふく。
- [初出の実例]「はての夢に、御社よりとて、ちはや著たるをうなの文をもてまで来たりけるを」(出典:拾遺和歌集(1005‐07頃か)神楽・五八八・詞書)
- 「下にはひはた色の襟をかさね、薄衣(うすきぬ)に月日の影をうつし、千早(チハ)や懸帯むすびさげ」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)三)
- ③ 歌舞伎や人形浄瑠璃で用いる衣装の一種。胴丸などの上に着る袖なしの胴着。〔楽屋図会拾遺(1802)〕
襅の語誌
上代には「ちはや」の例は見えない。「十巻本和名抄‐四」には「本朝式云襷襅各一条〈襅読知波夜 今案未詳〉」とあり、「和字正俗通」(一七三三)は、襷・襅を国字とする。国字であれば、「ちはや」の語の成立とともに「襅」が造字された可能性が高く、平安初期には「ちはや」の語が成立していたか。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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襅 (ちはや)
神事に奉仕するものが衣服の上に着ける白衣。たとえば大嘗会(だいじようえ)のさいに,神饌(しんせん)や陪膳(ばいぜん)に奉仕する女官(采女(うねめ))の装束では,白の小袖に紅の切袴(きりばかま),これに絵衣(えぎぬ)という白地に草花模様を泥絵で描いた袿(うちき)様の衣を着け,さらに波衣(なみごろも)という薄縹(はなだ)に白く青海波をあらわした唐衣(からぎぬ)様の短衣を重ね,その上に襅を打ちかけて着るのである。こういう近世の襅は,白の生絹に草花や水などの模様を藍摺(あいずり)にしたもので,形も祭事に男子の用いる小忌衣(おみごろも)と似て,身二幅に袖一幅でおくみのない,襟つきの垂領(たりくび)形であるが,本来は小忌衣が垂領形であるのに対して,襅は貫頭衣形のものであったらしい。すなわち〈ちはや〉という名称も〈いちはや〉の略語であるといわれているように,男女ともに必要に応じて衣服の上にこの貫頭衣形の短衣を着けて,ちょうどたすきをかけたように袖やたもとをその中へたくしこみ,動作をしやすくする目的の衣服であったようである。なお襅は葬送のさいにも葬列に従うものが着けていることが,《北野天神縁起》などの鎌倉時代以後の絵巻物などによって知られる。この時代の襅は,貫頭衣の形はとっているがすでに実用衣でなくて,祭礼の場合も同様に,前は短いが後身が地にひきずるほど長くなっている。古くからあった貫頭式の無袖衣が,とくに祭祀関係とむすびついてでき上がった一種の儀礼服であるといえよう。
執筆者:山辺 知行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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