視点取得(読み)してんしゅとく(英語表記)perspective taking

最新 心理学事典の解説

してんしゅとく
視点取得
perspective taking

自分の現在の視点を異なる立場や位置(他者視点another viewpoint)に移動させ,その視点にある者がもつだろう考えや感情,あるいは見えるはずの風景などを推測する心の働き。取得すべき視点が,社会における役割などを意味するのかそれとも空間内での位置を意味するのかで,社会的視点取得と空間的視点取得に大別できる。社会的視点取得は,1980年ころまで役割取得role takingとして研究が進められ,現在では心の理論theory of mind研究に引き継がれている。空間的視点取得研究は,射影的空間表象段階からユークリッド的空間表象段階への移行を論じた,ピアジェPiaget,J.とイネルデInhelder,B.(1948)に端を発する。射影的空間表象段階では,複数の物体を特定の視点に結びつけてとらえることはできるが,複数の視点間の関係を取り扱うことは困難である。対してユークリッド的空間表象段階になると,強固な水平-垂直軸が成立し,複数の視点間を柔軟に行き来することができる。ピアジェらの研究の中で「三つの山を用いて浮かび上がった問題点」を論じるために用いられた課題は,のちに三つの山問題three-mountains task(三つ山問題,三山問題)として発達研究で頻用された。この課題では,子どもの眼前に置かれた3種類の山の模型を他者視点から眺めたと仮定したときに,どのような風景が見えるのかを想像するよう求められる。課題への反応は,質問の意味さえ理解できない段階から,自分自身の見えをそのまま答えてしまう段階を経て,見えの区分や統合が見られるようになるまでの一連の発達段階に分類された。しかし三つの山問題自体は,信頼性と妥当性の両面において問題があると批判され,現在では検査課題としての価値は低い。

 ピアジェによれば,幼い子どもたちが視点取得に困難を示すのは,自分の視点や経験に立って事態を認知する自己中心性egocentrismの傾向が強いためである。そのため,現在の自分自身の視点が生み出す考えや見えに固執する自己中心的反応がしばしば生じる。しかし自己中心性の本質は,複数の視点を関連づけ,区別し,また協応させることができないことであり,自己視点への固執はその一面にすぎないことから,単に中心性centrismとよばれることもある。

 自己中心性の強弱に由来する発達的変化は,前操作期から具体的操作期への段階移行において顕著に現われる。たとえば,前操作期に相当する幼児の多くが,量や数などの保存conservationの理解が不十分であり,数の集合や物理量の外見の変形によって数や量が変化したと誤って考えてしまうのは,変形の生じた次元にのみ中心化してしまい,同時に変化するはずの相殺的次元への配慮を欠くためである。具体的操作期に入って自己中心性が弱まる(脱中心化decentering)につれ,論理的な操作operationが可能となり,保存概念が獲得される。視点取得においても,具体的操作期には他者視点からの考えや見えをおおむね理解できるようになるが,それで完成に至るのではなく,脱中心化が進むことにより視点取得における柔軟さが増すと考えるのが適切である。 →心の理論 →認知発達
〔渡部 雅之〕

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