最新 心理学事典 「視点取得」の解説
してんしゅとく
視点取得
perspective taking
ピアジェによれば,幼い子どもたちが視点取得に困難を示すのは,自分の視点や経験に立って事態を認知する自己中心性egocentrismの傾向が強いためである。そのため,現在の自分自身の視点が生み出す考えや見えに固執する自己中心的反応がしばしば生じる。しかし自己中心性の本質は,複数の視点を関連づけ,区別し,また協応させることができないことであり,自己視点への固執はその一面にすぎないことから,単に中心性centrismとよばれることもある。
自己中心性の強弱に由来する発達的変化は,前操作期から具体的操作期への段階移行において顕著に現われる。たとえば,前操作期に相当する幼児の多くが,量や数などの保存conservationの理解が不十分であり,数の集合や物理量の外見の変形によって数や量が変化したと誤って考えてしまうのは,変形の生じた次元にのみ中心化してしまい,同時に変化するはずの相殺的次元への配慮を欠くためである。具体的操作期に入って自己中心性が弱まる(脱中心化decentering)につれ,論理的な操作operationが可能となり,保存概念が獲得される。視点取得においても,具体的操作期には他者視点からの考えや見えをおおむね理解できるようになるが,それで完成に至るのではなく,脱中心化が進むことにより視点取得における柔軟さが増すと考えるのが適切である。 →心の理論 →認知発達
〔渡部 雅之〕
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