親子契約(読み)おやこけいやく

改訂新版 世界大百科事典 「親子契約」の意味・わかりやすい解説

親子契約 (おやこけいやく)

農家における経営移譲と親族間扶養に関する父子契約ないし家族協定。日本の農村では,高度成長中期にあたる1960年代の中ごろから,市町村・府県段階の卓抜したリーダーがいて,しかも多くの農家がその指導に呼応する特定の地域で,農家世帯の中に,世代交代を円滑に行い,家族農業経営に新しい活力を付与しようとする動きがみられる。それは,とくに父(現在の事業主・経営主)と子(後継者)をおもな当事者として,子やその妻などに対する労働報酬の支払,特定の部門の分担,農業資産(農地)の承継および老親扶助,後継者以外の子(他出予定者)への財産分配のような事項の一つないし全部について,合意・契約を結ぶことを内容とする。これが,親子契約,父子契約,家族協定などと呼ばれるものである。これに対して,現在までのところ,国家の法律による格別な位置づけ,援助はなされておらず,このような契約・協定をしようとする農家に対する指導・助言は,主として,とくにその意義を高く評価する市町村農業委員会,市町村長または農業改良普及組織によってなされているにすぎない。したがって,その普及の程度は,地域によって大差があり,名称も,地域,指導機関によって異なっている。

(1)農業経営は,現実には多くの場合,経営主(自己の名義で,肥料農薬燃料等の資材を購入し,生産物を販売し,納税をする者)だけによってまったく個人的に行われているわけではなく,各種の方法による世帯員の協力によって行われている。たとえば,経営主の妻・子(後継者),その妻など(の全部または一部の者)が,労力や技術を提供して協力し,経営主の父が,その所有する農地を提供している,といった具合である。このような,農家世帯内部における個人相互間での,労力や財産の提供による協力関係について,関係者が契約をすることによって,一方において,農家・農村の実態・慣習に即し,農民の感情を尊重しつつ,同時に他方において,国家の法律体系にも十分通用する形で,これを明確にしようとすることが,親子契約の第1の意義である。(2)相続に関しては,日本の現行民法は,生前相続や相続契約を認めていない。しかし,農家の世代的な経営承継および財産承継は,死亡を原因とする相続だけでは十分に処理できない性質をもっている。そこで,経営主が生前に後継者等と契約をして,経営・財産の承継について最も適切な取決めをしようとすることが,親子契約の第2の意義である。近時,日本の学者によって行われたドイツ,フランスの農家相続の実態調査と対比しても,経営主の生前における経営・財産承継契約の意義が再確認されたといえよう。

親子契約は,その内容ないし協定事項の中心が何であるかを基準として,いくつかの類型に区分できる。ここでは,親子契約の普及推進に重要な意味をもった全国農業会議所が1967年に策定した〈家族協定--農業普及推進に関する新要綱〉に示された四つの基本型について説明する。(1)労働報酬協定 父(経営主)が子(後継者)に対して,月給・年俸などを支給する契約である。この支給に対する税法上の取扱いは,父が青色申告をしているか否かによって違ってくる。(2)部門分担協定 特定の部門(例,園芸,畜産)または部分(例,ある場所の圃場・畜舎)を子(後継者)に主として独立採算で経営させる契約である。(3)家族協業協定 家族員が各自,資産,資金,労働力,技術などを提供して協同経営を行う契約。法律上の形態としては,民法上の組合契約(民法667条以下)によるものと,法人化するものとがある。(4)経営移譲協定 子(後継者)が父(経営主)から主として農地の譲渡を,一括しまたは分割して漸次に受けることを中心とする契約。この中では,父が農業者年金基金法による経営移譲年金(同法41条以下)の受給資格を得る要件が備わった時期に,いわゆる農地生前一括贈与の特例(租税特別措置法70条の4など)を利用して,農地を一括贈与するものもある。
相続
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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