大動脈の壁は内膜,中膜,外膜の3層からなるが,中膜が内外2層に解離して,そこに血液が流れこんで血腫が形成された状態をいう。大動脈の解離では,内膜が裂け,裂け目(エントリーentryという)が中膜の内層寄りの部分に広がっていくのが普通である。中膜が正常である場合は少なく,大部分は基礎に中膜の変性がみられ,高血圧症,先天性心疾患,マルファン症候群,内分泌異常,妊娠外傷,大動脈炎などに合併しておこる例が多い。エントリーは,大動脈の走行の関係で,大動脈壁に最も大きな力の加わる所にできやすく,したがって,その大部分は上行大動脈と,下行大動脈の左鎖骨下動脈分岐部直下にみられる。解離した大動脈壁内腔は偽腔といわれるが,偽腔の広がりによってド・ベーキーDe Bakeyは大動脈瘤を3型に分けた。Ⅰ型は大動脈全体にわたるもので解離性大動脈瘤全体の約75%,Ⅱ型は上行大動脈のみに限局したもので約5%,Ⅲ型は下行大動脈より末梢に広がるもので約20%を占めている。
一般に男性に多く,40~60歳代に発症のピークがある。突然,主として胸部の激痛で始まるが,呼吸困難,心不全,失神発作,腹痛,吐き気,嘔吐,血尿,乏尿など,血流が障害される臓器によっていろいろな症状がみられる。解離を放置した場合,約50%が48時間以内に死亡し,約70%が1週間以内に死亡するといわれており,いずれにしても急性期の死亡率がかなり高い。死因は,心タンポナーデ(心囊内に動脈瘤が破裂して急速に血液がたまった状態),動脈瘤破裂による出血などが多い。
大動脈造影,超音波診断,コンピューター断層撮影等で解離性動脈瘤が確認できるが,エントリーを見いだすことは必ずしも容易ではない。治療は,まず収縮期血圧を90~120mmHgにまで下げることが第一である。急性期のⅠ,Ⅱ型では,早急に手術を行い,偽腔を閉鎖するが,Ⅲ型では降圧療法で経過をみてもよい。慢性期では,動脈瘤の増大,その他の合併症が認められれば手術が必要である。
執筆者:長谷川 嗣夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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